事業と保育

今日の企業は、組織のほとんどあらゆる階層に、高度の知識や技術を持つものを多数抱えていると言います。そのため、企業そのものや企業の能力に直接影響を与える意思決定が、組織のあらゆる階層において行われているのです。当然、それぞれで漠然とではあっても、自らの企業について何らかの定義を持って意思決定を行っているのですが、企業自体がその「自社の定義」をもっており、それを伝えていなければ、あらゆる階層の意思決定が、それぞれ違い両立不能な矛盾した企業の定義に従って行われることになるのです。そのため、あらゆる組織において、共通のものの見方、理解、方向づけ、努力を実現するには、「我々の事業は何か。何であるべきか」を定義することが不可欠であるとドラッカーはいいます。

 

ドラッカーは自らの事業は何かを知ることほど、簡単で分かりきったことはないと思われるかもしれない。しかし、分かり切った答えが正しいことはほとんどない「われわれの事業は何か」を問うことこそ、トップマネジメントの責任であると言っています。そして、企業の失敗や挫折の最大の原因はこの企業の目的としての事業が十分に検討されていないことだと言っています。逆に成功を収めている企業の成功は、「われわれの事業は何か」を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによってもたらされていると言っています。

 

これは保育にとっては各現場での保育カリキュラムや保育のねらいといったものが企業で言う「事業」にあたるのかもしれません。それぞれのクラスやチームで園の理念を理解した上で、クラス運営をしていかなければいけない。そのためには、園がどういった理念を考えているのか。どこに目的があるのかといったことを理解し、実践していくことが重要になってくるのだと思います。そのため、マネジメントをする側の人の役割は園の理念をしっかりともち、その理念を周りに浸透するための方針を持っていなければいけないということなのだと思います。そして、それを実現するにあたり、ドラッカーは「その出発点は顧客でなければいけない」と言っています。事業は社名や定款や設立趣意書によってではなく、顧客が財やサービスを購入することにより満足させようとする欲求によって定義されるのです。顧客を満足させることこそ、企業の使命であり目的であり、その実現が事業なのです。

 

そのために、では「顧客」とは保育や教育の世界において誰のことを指すのでしょうか。このことを知ることは組織や企業の使命を定義するうえで、もっとも重要な問いとなるのです。この問いに対する答えによって、企業が自らを定義するかがほぼ決まってくるとドラッカーは言います。