1月2022

人の立場を理解する

今後論文の口頭試問があるのですが、それに向けた話し合いの中で、私を担当される副査が割と厳しい見解を持っているという話を聞きました。そして、その先生が一言「もう少し書けるかと思っていました」とこれまたかなり手厳しいことを言われたと聞き、少し意気消沈していました。「さて、どうしたものか」ただ凹んでばかりでは、話が進まないので、今後のことを整理しながらこれからの口頭試問について覚悟を決めていました。

 

そんな折、家に帰って、妻とそのことについて話をしている中で、今回の口頭試問で堪能の先生に割と手厳しいことを言われたと話をしたのです。その言葉に私の妻は一言「先生たちの気持ちもわかったんじゃない?」。おみそれしました。これまた手厳しい一言です。しかし、この言葉に対して、これまでの私であったら「そうか、やはり自分はできていないのか」とか「ダメだな」と単純に凹んでいたでしょうが。今回はなぜかその言葉に対して、「なるほど、先生たちとはこういう気持ちだったんだ」とふと感じることに至りました。そして、じゃ、こういった時にどういった言葉が欲しかったのだろう。なんて言ったらいいのだろうと冷静に考えることにもなったのです。おそらく、今の自分と照らし合わせてみると、「よく頑張ってたじゃない、でも、これがゴールと思わずに今回の内容を改めてみて、ブラッシュアップして、今後より良くなるようにもっと頑張っていこうね」と言われたいと思いました。そうすると、これまでの自分自身のがんばりやとりあえず一つのことが出来たことに対する一定の満足感はえれていたと思います。しかし、今回の担当の先生のように「もっとできたんじゃない?」とか「これぐらいかぁ」と言われると、意識の高い人間は「なるほど、もっと頑張らなければな」となるでしょうが、「こんなに頑張ったのに・・・」と思う人の方が多いのではないかとも思います。

 

マネジメントについてこれまで吉田松陰やそのほかの本も読んでいましたが、共通するのが相手を立てることや傾聴するということでした。そして、相手を認めるということです。この点に関して、自分自身頑張っているつもりであったり、やっているつもりであったのですが、自分がいざその立場になったときに「できていない」ことがあったということを理解しました。なるほど、「今の職員はこういった気持ちで感じていたんだ。そりゃしんどくもなるわな」と思いました。

 

特に最近は相手に対して、どのようにアドバイスをすることができるのか、どう声を掛けたら主体的になるのかと思っていました。そして、相手を認めている言葉がけとは何なのかと思っていたのですが、なるほど、「こういったことなのだな、自分に足りないのは」と素直に感じたのです。

 

今でも、どう考えて、どう話をしていけばいいのか。明確な答えは見つかってはいないのですが、こういった小さなやり取りの中で、どのようにして相手を認めていくことが出来るのかを考えた時に、自分が一度言われる立場になることで、改めて職員の立場であったり、感じ方であったりを体験したのはとても出来事であったと思います。また、感じ方がこれまでと違い、ただ凹むのではなく、自己分析し、活路を見たようになったのはこれまでマネジメントの本を読んだりしていたのが生きたのかもしれません。問題は実践です。これからどういった変化を起こすのかは自分自身なので、今回の事はよく考えて、これからにつなげていきたいと思います。

「有用な」人的ネットワーク

コミュニケーションの次に松下村塾で吉田松陰が塾生に求めたものを「人的ネットワーク」です。しかも、それは「有用な」人的ネットワークの創造を求めたのです。では、「有用」というのはどういったものなのかというと、「『自分たちが目指すことをやり遂げるために必要なものとはなにか』を考え、仕事や学問の環境や仕組み(組織)をどうやってつくっていくか、師や友人を求める基準をどこに置くかを考えて行動していた」とあります。大切なことは「めざすことをやり遂げるために必要な」ことを遂行するためのネットワークを作ることです。紹介している「松下村塾 人の育て方」はあくまでビジネス書ですので、保育や教育とは違った切り口で書かれていますが、教育や保育においても切り口を変えてみるとこの考えは利用できるものになります。

 

ただ、ビジネスとは違うのは結果がすぐに出るものではないというのが教育や保育にいわれるものであり、より強い動機を求められるということにもあるように思います。また、成績や業績といった目に見える成果があるわけでもないので、抽象的なものを追う形になるのもこういった教育における一つの課題であるかもしれません。ただ、ビジネスにおいて、様々な部署との関わり、営業や製造などの関わりと同じように、保育や教育においても、上司や職員、主任、保護者関係と人との関わりは求められます。そういった人との関わりにおいて、信頼関係を通して人的ネットワークというのはとても重要なものです。

 

松陰にとって人的ネットワークをつくる過程で重要なことは「有用性」であり、こういった視点で仕事の組織図をつくることを進めています。そして、仕事を進めていくなかで起きる小集団をうまく作っていくことの重要性を述べています。それは「自分の仕事を遂行するためにその都度必要な小集団をつくる」ということです。こういった自分の仕事を遂行するために必要な小集団をつくることで、高い生産性をあげることが出来るという言います。保育で言うと、子どもたちにとっていい環境が作ることが出来るということです。

 

保育の中でも様々な小集団は作られます。例えば行事の係であったり、複数担任制の職員関係です。何か新しいことを始めるにあたって、コミュニケーションを取りながら、小集団を絶えず作り課題に向かわなければいけません。

 

ただ、ここで言えるのは何においても「自分が目指すこと」が見えていなければいけません。つまり目的意識がなければ、ただの「作業」になってしまうのです。ここにマネジメントをする側の大きな意味があります。目的意識をはっきりと示す必要があるのです。でなければ組織は与えられたものでしかなくなります。仕事の質を高めるにはこういった目的意識を持たせた集団をつくっていくことが重要になるのです。リーダー自身はこういった有用な人的ネットワークを創造するために、組織全体にそのような考え方を持つように共通認識を持たせることが必要になります。

コミュニケーションの質を高めるポイント

企業や組織におけるコミュニケーションとは単に仲が良いことを指すことでもなければ、おしゃべりをすることではありません。松下村塾におけるコミュニケーションとは「意図や意思決定を行っていくなかで良好な共有関係をつくり、課題の発見や問題解決に向けて知恵を集めるプロセスの事である」と紹介されていました。では、このような質の高いコミュニケーションにするためにはどのようなポイントに注視したらよいのでしょうか。ここにおける大切なポイントは8つあります。

 

➀受容 「相手の基本的人権を尊重し、1人の人間としてありのまま受け入れる」

➁傾聴を心掛ける 「自分の価値観や先入観を持って聞かない。結論を急がない。凝視しない程度に自然に視線を向ける。書類などに目を向けながらであると、無視や拒否と取られる。状態や足をゆすらない。足を組まない。腕を組まない」

➂簡単受容 「うなづき、あいづち」

➃要約 「相手の話の用紙をまとめて伝え返し、相手の話を的確に理解できているかを確認

➄質問 「分からないことは、きちんと質問して、共通の理解をしておく」

➅フィードバック 「質問に答えてもらったり、アドバイスを貰ったりしたときは、その解答やアドバイスによって自分の考え方や行動にどういう変化が生じ、それによってどんな結果になるかをフィードバックする」

➆アサーション 「相手の立場や権利を尊重し、対等の人間関係を前提として、自分の意見、感情、権利など、言いたいことを率直に表現する。ただし、冷静におこない、発言することを一度心の中でまとめてから素直に表出するように心がける。」

➇非言語コミュニケーション 「身振り、対人距離、身体接触、声の大きさ、話す速度に気を配る」

 

これらの8つのポイントを心掛けることで質の高いコミュニケーションになると言います。

 

「傾聴」ということが割と私の場合課題であったり、アサーションというのは初耳な言葉でしたが、相手の権利や立場を尊重するということがまだまだできていなかったなと考えると、自分自身のマネジメントにおいて、「相手の立場になる」というよりも、「相手の目線に合わせる」ということに課題があるということが見えてきます。こういった指標をもって自分のコミュニケーションを見直すということはとても参考になるのではないでしょうか。私は割と頭で考えて物事を判断することが多いほうなので、自分の対応をこういった反省する自己評価があると割と関係性を気付くことにおいて、省みることが出来るように思います。

 

まず、重要になってくることが、こういったやり取りを通して、相手がどのように感じ、自分に向き合うようにするかが大切であります。何よりも、自分が変わらなければいけない。変わる必要があると思うためには、今の自分を見つめなおす必要があります。このポイントに関しても、そもそも「謙虚さ」というものがなければ、効率的にこのポイントを抑えることが出来ません。つまりは、こういったポイントを抑えたコミュニケーションが行える環境であったり、気づかせてくれる環境も必要なのでしょう。

コミュニケーションとは

1つめの「コミュニケーション能力の開発」では、どういった考え方を松陰はしていたのでしょうか。吉田松陰の行った松下村塾での教育は徹底した議論や討論でした。それは松下村塾だけではなく、他藩へ遊学や他の塾へ訪れたときも同様で、新しいことを学ぶだけではなく、自分の考えを述べ、他藩の人と議論することで、自分の人的ネットワークを広げていきました。そして、そのために必要だったのが「コミュニケーション能力」です。

 

ただ、一口に「コミュニケーション能力」といってもいくつかのものがある。その一つは「ディベート」です。ディベートはいわゆる討論による試合です。設定されたテーマについて「肯定派」と「否定派」に分かれ、決められた時間・順番によって討論し、第三者が評価を行います。そして、どちらが論理性、分析力、実証力によって第三者を説得できたかを競うのです。しかし、これは優劣を競うものなのでコミュニケーションとは言えません。次に「プレゼンテーション」です。これも自分のペースで話を進め、企業説明や商品紹介などはやりやすいが、一方通行になりがちです。では、どういったものが企業に求められるコミュニケーションなのでしょうか。

 

それは、「気持ち、意図、考え方などを言葉、文書、態度(表情、しぐさ、動作)などを通じて、必要な人や集団に伝え、様々な共有関係をつくり、課題の発見や問題解決に向けて関係者の知恵を集めていくプロセス」のことを指すのではないかというのです。ここにある共有関係というのは「上司と部下、やチームなど」のことを指します。そして、それらの目標や、知識、情報、仕事の進め方、判断の仕方、技術・技能などを共通に理解・認識していることの事を指します。そして、こういった共有関係を通じて、何が問題なのか、解決すべき課題なのかについて議論をして、認識を一致させることが大切になるのです。

 

こういった集団において必要とされるのはディベートやプレゼンテーションといった一方的であったり、勝ち負けといったやり取りではなく、新しい価値をつくるイノベーションが起こるやり取りの事をコミュニケーションというのだろうと思います。そして、そのためには統一された目的や目標意識が無ければ考えられませんし、それらが共通認識されていなければ、整理するものさしがなくなり、価値観をぶつかり合わされてしまいかねず、結果話を聞き入れるということも困難になってしまうかもしれません。そのため、周りの環境に対して、課題解決に向けて知恵を集めていくプロセスをコミュニケーションというです。

 

組織や集団におけるコミュニケーションとはただ会話やおしゃべりをするということではなく、課題解決に向けて知恵を集めていくことを指しているということはとても大きな意図であると言えます。そして、いまいち定義化されておらず、霧が覚めるかのようなすっきりとしたまとめ方をされているように感じます。このことはよく整理し、今の現状が正しいコミュニケーションが起きているかということを見ていきたいと思います。

7つの特徴

「松下村塾 人の育て方」を書いた 桐村晋次さんは松下村塾には7つの特徴があると言っています。

1,生涯を通じて学習を続けたこと。

今の時代は教育機関が終わると勉強も終わりという傾向があるが本来は終わりではなく、続いていくものであり、学んだものもかつようしていかなければいけない。

2,師弟がともに学び合う「師弟同行」が、村塾の基本姿勢であった。

どんな人でもすべて優れているわけではない、他の人に学ぶことは多く、互いに師となる必要がある。そのうえで、リーダーたる人は高い身分の保持に伴う義務を努める必要があり、自らを厳しく律することを考えていた。

3,少人数グループの議論を通じて、情報や知恵を集積し、一人ではできなくても、グループでやり遂げられることを体得させた。

答えの見つかりにくい課題を数人で討議させたり、難しい問題への対応を数人の弟子を指名して一緒に取り組ませた。

4,封建時代の身分制度を廃止、庶民の力を高く評価した「草莽崛起」の思想を根付かせた。

今の時代で言うと、学歴や学校の評価、男女差、雇用形態などの様々な利害があるが、そういった関係性を無くし、適材適所で関り合いながら関係性をよくしていく必要がある。

5,社会発展のために、若者に期待し、彼らを育てるという基本的な方針が村塾にはあった。

若者の自立を辛抱強く待ち、答えの無い問題を仲間と議論して考える習慣を持たせる。教え急がず、自分自身についての理解を深めさせることを進めた。

6,専門性を高めるには基礎を形成する教養を積むことが大切だということが認識されていた。

多様性を理解し、それぞれが得意な分野の習得に努め、視野を広げることの大切を求めた。

7,現場現実にふれ、情報と実践を重視するという心構えであった。

社会に目を向け、情報と実践をしっかりと結びつけたのです。

 

これらの特徴を抑えて考えると、松下村塾の塾生は「『集団啓発の場』を活用して“自力で”育っていった」ということが言えるのです。そして、この「集団啓発の場」のために大切なのは➀集団討議の中で、問題意識を共有し、問題解決に向けて知恵を集めていくコミュニケーション能力 ➁有用な人的ネットワークの構築 ➂小集団活動における集団啓発と自己開発 であると桐村さんは分析しています。

 

この三つの活用点はなるほどと思います。しかし、それと同時にこの内容に皆困っているというのも事実であり、悩ましい問題点であると思います。では、これらの3つの視点はどのように考えていけばよいのでしょうか。