幼児研究から見えてくるもの

これまでの認知的な発達はそれまでのもの以外にもピアジェは乳幼児教育の中でいち早く「永続性」というものに注目しました。対象の永続性とは「対象物を実体性を持つ永続的な存在として捉え、見えなくなったり、触れられなくなったりしたとしても、それは存在し続けている」と理解することだと言います。ものの存在の認識がしっかりしていくるということですね。この対象の永続性という概念により、乳児は生後8か月ごろになると、対象探索ができるようになると考えました。赤ちゃんがものを探すためにハイハイをするということは世界が広がっていくためですが、そもそもそこに何があるのか、そこに行けばあるという認識ができてくるからということが言えるのですね。しかし、後世の研究によりこの理論は論破されることになります。それは生後8か月ではなく、生後半年以下の乳児においても対象の永続性を持つことが示されたためです。

 

また、ピアジェの幼児研究で有名なものに「幼児の自己中心性」という概念があります。ピアジェの自己中心性とは、一般的な意味のものではなく、自分以外の視点が存在することがわからず、周りのひとも自分と同じように外界を知覚していると思っている状態のことを言います。感覚運動期(0~3歳)の最後に獲得する「今ここにない物事をイメージする」といった感覚「心的表象」をすでに前操作期(3~6歳)の子どもたちは獲得しているのですが、すぐに論理的な思考ができるわけではないと言われています。そして、この時期の幼児の志向段階は自己中心性で特徴づけられると言われています。

 

さらにピアジェは自己中心性とともに「中心化」も前操作期の特徴であるとしました。この中心化とは、この時期の子どもの、ある特徴にのみ着目し、別の特徴を考慮できない傾向のことと言います。どういったことかとうと、水の入った容器から別の容器に水を移したとき、同じ量の水を移しかえても高さが高いほうが水の量が多いと判断してしまいます。実際は容器の高さと底の大きさといった2つの特徴を考慮して考えなければならないのに、高さといった特徴だけに着目してしまい、他の特徴に着目できないと考えたのです。これは量の保存だけではなく、数の保存、長さの保存も同じように考えてしまいます。

 

他にもピアジェは「アニミズム」に関する研究も重要な業績として認められています。アニミズムは前操作期の幼児に見られる認知的傾向のひとつで、これも幼児の自己中心性の表れだと考えられました。子どもが物にも意識があり、そこに帰属させる傾向は、まず、人間にとって何らかの機能をはたしているもの、例えば①石のようなものが意識を持つと考える段階から、②6~7歳から8~9歳にかけて、風や水のように動くものだけが意識を持つと考えるようになり、そして、③8~9歳から11~12歳になると、自発運動をするものだけが意識を持つと考え、最後に④11~12歳以降になると、動物だけが意識を持つと考えると言い、4つの段階で発達するとしました。

 

このアニミズムと同様に重要な概念として、ピアジェは「実念論」と「人工論」という考え方を提示しました。実念論とは子どもが心的出来事と物理的出来事を混同することです。子どもは思考が口や耳で生み出されていると考えますし、夢が頭の中だけで展開されていることを理解できません。自分の思考と外界の区別ができていないからです。その結果魔術的思考のような非論理的な思考が生み出されてしまいます。人工論とはすべての事物はひとがつくったものだと考えることです。

 

このようにして見ていると、ピアジェは様々な幼児期の認知的発達の概念を見つけてきたということがわかります。ピアジェのこの乳幼児研究の理論は非常に素晴らしい業績を残しています。しかし、その一方で、「彼の研究手法では、乳幼児の能力を十分に測りきれていない」という批判が20世紀後半に相次いで起こりました。それはどういったところなのでしょうか。