赤ちゃんの論理的思考

ピアジェは乳児が数の認識について、論理的思考ができるようにならないと考えており、数の概念は十分に獲得することはできないと考えていました。しかし、乳児研究の発展により、この理論も覆ることになります。乳児が数の概念について理解しているだけではなく、わずかながら計数能力も持っていることが分かってきたのです。そして、この数の能力もコアノレッジの一つとしています。

 

ちなみに前回の話の中でも出てきたコアノレッジ(中核知識)というのは、乳児が(物体や数、他者との関係などのように)人が生存するうえで重要で最も基礎的かつ中核的な部分を、生得的(生まれながら)に持っている、もしくは、必要最低限の経験で獲得できるように生まれてくるという考え方で、このような基本的なコアノレッジに、2000年代半ばからは、新たに社会集団いついての領域も含まれてきており、米国の認知心理学者 エリザベス・スペルキがコアノレッジ理論として記したものです。

 

たとえば、生後3か月の乳児は自分と同じ人種の顔を好んで見つめたり、5カ月児は自分の母語のアクセントで話していた人の顔を、別の言語や別のアクセントで話す人の顔よりも好んだりするなどの傾向があると分かってきました。そのほかにも、最近の研究では、食物を新しい領域に含めるべきか、などという議論もされており、その幅はますます広くなっていく領域であると予想されています。

 

前回にも登場した心理学者T・G・バウアーは著書「賢い赤ちゃん」の中で、赤ちゃんは論理的であり、仮説を立て、その仮説から予測を演繹(えんえき)すると言っています。こうした研究により、乳幼児の力が次々と示されてきたのです。

 

また、米国の児童心理学者アリソン・ゴプニックの「哲学する赤ちゃん」ではそうした赤ちゃんに関する様々な発見が紹介され、幼児が(かつては理解できないと考えられていた)因果関係を理解し、(関心を持ち)、仮説をたて、未来を予測できることも示されています。そのうえ、乳幼児は物理学的、心理学的、生物学的な面でも、因果関係の知識を持っていると考えられています。これについては「素朴理論」という言葉で説明されています。

 

素朴論とは子どもの持つ知識が、断片の寄せ集めではなく、理論と呼べるほどに体系化されている様子のことを指すそうです。つまり、学校教育で教わったことではなく、素朴にもともとの子どもが持っている能力をゆうしており、「哲学する赤ちゃん」には「子どもの脳は、意識には上ることのない因果マップ、世界の仕組みを性格に捉えた地図を描ける」と説明しています。

 

このようにピアジェのそれまで行っていた数々の理論は覆っていくものが今の研究ではたくさんあるようです。しかし、このいくつを私たちは知っているでしょうか。今の保育環境がどれほどに生かされているのでしょうか。こういった研究内容を含め、新しい世界に向かっていく子どもたちに「生きる力」を育んでいくにはこういった研究をどう捉え、今に生かしていくことができるかが重要になってくるのだと思います。これまでの内容は藤森平司氏の「保育の起源」での内容から紹介しましたが、藤森氏は子どもの能力を過小評価しがちだと言っています。しかし、これまでの内容を見ていても乳児の持っている能力というのは

とても有能なものを持っていることが分かります。そのうえで藤森氏はこういった心理学の新しい知見から、「子ども観」の見直しを余儀なくされると言っています。