脳と環境

小西氏は「『臨界期』を、『教育的効果の高い時期』といった狭い範囲でとらえているように感じられる」と言っています。これにはいくつかの誇張された情報が原因であることも言えるようです。

 

たとえば、北海道大学の澤口俊之さんは「幼児教育と脳」(文春新書)の中で早期教育(著書では「幼児脳教育」)の必要性を説いています。この澤口さんは最近では様々なテレビ番組でもよく出演されていますし、知っている人もいるだろうと思います。彼は「音楽的知性を育てるには、それ相応の適切な環境が必要である、良質な音楽を(0歳児のころから)絶えず聞かせるといった環境である。楽器を演奏することも大切だ。このようにすればいわゆる『絶対音感』も獲得することができる」といっています。ほかにも、「赤ん坊でも良質の絵画に囲まれれば、ピカソもモネも理解しその影響は脳内に刻まれるはずだ」「仮にあるスポーツの優秀な選手に育てたいなら、幼少期(0~8歳、遅くとも12歳まで・筆者注)において、そのスポーツの少なくとも基礎はきちんと教えるべきだ」「もし、『真の』マルチリンガルに育てたいなら、幼少期に母国語の他に外国語の環境にさらすことが必須となる。もちろん、ネイティブの外国語環境である、英語なら、ネイティブ英語を話す人が身近にいることがベターだ」とも話しています。つまり、様々なことにおいて、脳にとっては臨界期までに早期教育的な環境に置いたほうが良いというようなことを言っています。

 

確かに、「オオカミ少女」や仔猫の実験のように、極端な刺激の遮断は脳の発達障害を招くことになります。しかし、最低限どういう刺激がどれだけあれば脳が正常に発達するかはまだわかっていないと小西氏は言います。ましてや、早期教育によって子どもの能力を伸ばすのに、どういう刺激がどれだけ必要なのかもわかっていないのです。そういった中において、今始めなければいけないからと焦って、嫌がる子どもを無理やりピアノ教室や英会話脅威室に入れることにどれだけの意味があるのでしょうか。まだまだ、脳科学においても解明がなされていないということを改めて行うことの危険性があるというのです。

 

このように脳科学のアプローチの重要性は様々な視点をもたらしてくれます。正常な発達をもたらすためには適切な刺激は必要です。しかし、その一方で過度の刺激はかえって子どもたちの発達を阻害するものになりかねないと言います。ただ、こういった科学の進歩は議論を生み、大人の勝手な思い込みによる育児環境の誤った解釈を防ぐためにも、今後さらに高まってくるだろうと小西氏は言います。例えば、自閉症やアスペルガー症候群、学習障害(LD)などの発達障害においては脳科学の発展は欠かせません。しかし、「だからといって脳科学が乳幼児の行動のすべてを説明できるものではなく、子どもの発達は、その子どもを通してしか見ることができない」と小西氏は言います。

 

この言葉を現場の人間はしっかりと捉えておかなければけません。どうも、私たちはこういった研究成果を鵜呑みにしているところが多いように思います。「研究の内容に子どもをあわして」しまって、「子どもに研究を落とし込んで」いないかもしれません。

 

こういった説の中、澤口さんは先ほどの内容の一方でこういったことも言っています。