目標と”want”

鈴木氏は「部下とどんなコミュニケーションがとれたらいいですか?」と質問すると、多くの管理職は「目標を達成するようなコミュニケーション」と答えるそうです。確かに、目標や目的をもって、仕事をしてほしいものです。特に保育においては、成績などがなく、より明確な目的が持ちにくく、常に抽象的なものを追いかける職業です。そのため、他の職種に比べて、目標設定というのは理念的であり、そして、その価値観のすり合わせといった作業がより重要になってきます。では、どうするれば「本気で目標達成してみよう」と思えるような気を起こさせることができるのでしょうか。

 

鈴木氏は単にお尻を叩いて「がんばれ」というだけでは目標を達成するのは難しい時代だと言っています。多くの人は「目標達成したら、それはどんな“いいこと”を自分にもたらしてくれるのか」ということも含めて、目標についてたくさん、飽きるくらい誰かと話す必要があると言います。そうすることで、目標というものに意識が集中し「やってみよう」と思うのです。そのため、コーチングをする人は相手に対して、考えうる数多くの目標にまつわる質問を作りだし、相手と目標について多くの話をしてみるようにすることが重要になってきます。

 

また、その際、相手の“want”を一緒に探索することが必要だと言います。“have to~”(する必要がある)でがんじがらめだった人が、コーチの「やってみたいことは何でしょうか?」の質問をきっかけに、自分の“want”に目を向けるようになります。しかし、この“want”を見つけることは、決して簡単なものではありません。特にこのことは日本において難しいと鈴木氏は言います。なぜなら、日本においてはこれまで基本的に問題が投げかけられ、それを解いてきた人が圧倒的に多い国です。「正しく問題を解くこと」が大事であり、「自分なりの考えを表現すること」があまり重要視されていなかったため、社会においても「与えられた問題をどう解決するか」が仕事であり、「自分がやりたいことを提示してそれを実現する」という経験するものでもなければ、機会もないのです。そういった人たちが“want”を聞かれても答えられないというのです。

 

これは今の日本の教育や保育においても、大きな課題であり、日本が読解力があっても問題解決能力が乏しいと言われる部分につながっているところだと思います。乳幼児保育施設においても、今の子どもたちは自分から訴えてくるよりも、大人から声を掛けられるのを待っている子どもが多くなっているように思います。それは子どものやりたいことができる環境が少なく、言われたことをすることや主体性が保証された環境が少なくなってきているからかもしれません。特に鈴木氏が関わるコーチングの対象者は社会人です。つまり、こういった人材を世に送り出しているのはやはり教育に問題があり、その始まりの時期の乳幼児施設の時期から、こういった子どもが多くいるということはよく考えなければいけません。こういった書籍からも様々な問題点が見えてきます。では、社会に出た人が“want”を見つけるためにはどうしていくのでしょうか。これは保育にも生かせる内容かもしれません。