強みを生かす

人にはそれぞれ4つのタイプがあるということを前回紹介しました。そのうえで、そのタイプを活かし、かつ強みにするような力にしていくのがコーチングの腕の見せ所です。鈴木氏は「名選手、名コーチにあらず」という言葉を紹介しています。いくら現役のときにいいプレーヤーだったとしても、後進の選手が育つとは限りません。なぜなのか、名選手が名コーチになりにくい理由に、自分のやり方を後進の選手たちが受け継ぐことを求めがちになってしまうことがあると言います。かえって、現役時代あまりいい成績を残せなかったコーチの方が、自分のやり方にこだわりを持たない分だけ、選手個々に合わせた育成方法を考え出したりするそうです。

 

このことはビジネスであっても同様で、上司がかつて成功を遂げたやり方を部下に強要しがちになると鈴木氏は言っています。ある保険会社で成績が伸びないYさんにどうコーチングしていけばいいのかといったテーマで話をしたとき、そこの所長はYさんに対して「最終的にどれだけ自分の熱い思いをお客さんに伝えられるかだと思うんですよ。あいつはどうもそこのところが弱いんですね。自分自身の壁を崩せないんですよ」といっていたようです。しかし、この“熱く保険を売る”というのは所長のやり方であって、このことが必ずしもYさんの目指すべき営業マンの在り方であるとは限らないと鈴木氏は言います。なぜなら、タイプで言うと所長はプロモーターであり、Yさんはどうやらアナライザーのようだからです。アナライザータイプは分析力に優れ、論理的に話を進めていくのは得意ですが、感情を表現したり、“ノリ”で相手を巻き込んでいくことは得意ではないのです。

 

つまり、この場合。所長はYさんに対して、タイプの違う関わりを求めていたのです。Yさんを活かしていくためにはYさんの「アナライザー」としての強みを生かした営業を求め、生かしてあげるべきなのです。それはYさんに自分の強みを気付かせることでもあるのかもしれません。このように「タイプ分けは相手の強みを知り、どのポイントを中心に彼らを伸ばしてあげればいいかを理解する切り口を与えてくれる」と鈴木氏は言います。

 

自分の経験値ややり方はいくら自分にとってはやりやすく、成果の出やすい経験であったとしても、それを相手に強要したところで、それが合うタイプなのかどうかは当然別問題であり、成功するとも限らないのです。大切なのは「相手のやり方をどう個別対応して、相手の強みを見つけて伸ばしてあげるべきなのかだ」と鈴木氏は言っています。

 

なかなか相手を尊重するというのは難しいことです。ましてや、相手が自分とはタイプが違うとどういった結果になるかはなおのこと心配になります。だからこそ、相手のタイプを知り予測することが重要であるのでしょう。よくこういったコーチングの本を読んでいると相手が「働きやすい」ようにということが言われます。これは一歩間違えると「なぁなぁ」な関係に勘違いされることもあります。「楽しむ」と「ふざける」のが違うように、「働きやすい」と「なぁなぁ」も違います。この環境作りにこそコーチングの意味があると思います。この「塩梅」を探すのがやはり難しいと思っているのは、コントロールをしようとしているからなのでしょうか。