脳の臨界期と刺激

赤ちゃん学会の故 小西行郎氏は脳の臨界期には乳幼児期の脳の発達の仕組みが大きく関わっていると言います。では、その脳はどのように発達していくのでしょうか。小西氏は「簡単に説明すると、人間の脳は、胎児期に脳のもととなる神経板や神経管、神経芽細胞というものができ、それが大脳や小脳、延髄などに分かれて成長していきます。その後、脳の中に神経細胞(ニューロン)が発生して数が増え、他の神経細胞と結合するようになります」と言っています。そして、「脳の中にできた神経細胞が他の神経細胞と結合するときに“シナプス”と呼ばれる部分を介して刺激(情報)を伝達し合います。シナプスを介した神経細胞同士の連携、つまり脳の神経回路(ネットワーク)づくりが、いわゆる“脳の発達”と呼ばれるものです」そして、このニューロンのあたりのシナプスの数は、たとえば、人間の視覚機能をつかさどる脳の部位(視覚部)であれば、生後8か月ごろにピークに達します。そして、その後、どんどん消えて3歳頃には大人と同じ数になります。

 

面白いのは脳の発達は赤ちゃんのときにピークになるのですね。これは一見非効率ではあるのですが、ネットワークづくりの過程でシナプスが必要以上に多く増えるのは、脳の中枢神経に何らかのダメージが発達した場合、ダメージを受けたシナプスなどの代わりをする予備の役目を果たすためだそうです。では、なぜ減っていくのか。それは遺伝的な要因ももちろんありますが、その時点で使われていない不要なシナプスが整理されるためではないかと考えられているそうなのです。このように整理されることで、無駄のない効率的なネットワークがつくられていくのです。このことをシナプスの「過形成」と「刈り込み」と呼びます。

 

このようなことを受けて、早期教育肯定派の人たちは、このシナプスの数が最大になる乳幼児期にたくさんの刺激を与えて、色々な才能を伸ばしましょう(たくさんのネットワークを作りましょう)という解釈になるのではないかと小西氏は言っています。しかし、これは大きな誤解を生むと小西氏は言っています。それは脳のメカニズムや「臨界期」の関係はまだまだ研究が進められているところで、実はまだわかっていないのが現状なのです。そして、シナプスの話で言うと、20歳くらいまでシナプスの数が増え続ける脳の部位もあり、一概に乳幼児期でピークになるわけでもないそうです。逆に刈り込みがうまくいかないで、シナプスの数が多いままであるとADHD(注意欠陥多動性障害)の原因になるのではないかという研究もあります。

 

実際、このことで、一時期赤ちゃんが前を向く抱っこ紐が注目されたときもありました逆に刺激が強すぎるがゆえに子どもが落ち着かなくなったということで無くなったということも言われています。一概に刺激があり、シナプスの数が多ければいいというわけでもなく、大切なのは「適切な刺激」をあたえ、シナプスの刈り込みを適切に起こすことが重要なのでしょう。小西氏も「乳幼児期の脳に刺激が不要と言いたいのではありません」としてます。そして、「過度な刺激は科学的な裏付けがされていないだけに、その効果や安全性を保障できるものではない」というのです。