要素から見えたこと

ワンゴールでは成績が大学に進学するための対策を立てて、子どもたちの指導に当たっています。その中で、ワンゴールのプログラムに関わっていたミシェル・ステフルは生徒たちに自分たちの可能性を納得させることの難題にぶつかります。その時ステフルは気づかぬうちにスタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックの「しなやかな心」について考えることがよくあったといいます。

 

このことは以前にも紹介しましたが、ドゥエックの発見によれば、「知能は改善できると信じてる生徒のほうが、知能は変わらないものだと思っている生徒よりもはるかに伸びる」というものです。そして、ニューヨークのKIPPにおけるディビット・レヴィンのプロジェクトは、本質的にはドゥエックの「心のありよう」の考えかたを性格にまで拡大解釈したものでした。それはステフルが生徒に対してやろうとしていくのも同じようなことでした。

 

それは知能や性格だけではなく、運命だって変えることができるのだ、過去の行動だけが将来の結果を示す指標ではないのだと生徒たちに納得させようとしたのです。しかし、それは空っぽの自信や希望的観測の効用を説いているわけではないのです。彼女が生徒たちに伝えたかったのは、伸びることや向上することは可能だし、今までよりずっと高いレベルに到達することもできるが、それにはかなりの努力とかなりの粘りと、かなりの性格の強みが必要であるということでした。

 

ワンゴールのプログラムについて、アンジェラ・ダックワースに話すと、彼女はあることを指摘しました。彼女はワンゴールのカリキュラムの構成要素の一つであるACT準備には、目的が二つあるかもしれないといっています。第一に実際問題としてスコアが数ポイントあがれば生徒はよりよい大学に入れる。第二に知能を測るテストの結果が向上した経験は、「しなやかな心」を強化する忘れられないメッセージになる。頭をよくすることはできるのだ、もっとうまくやれるのだというメッセージになるというのです。

 

「しなやかな心」というのはある種の自信なのでしょうね。一つ一つ事柄を自分で乗り越えていくことでついてくる自信が次の行動につながっていくということなのでしょう。また、ワンゴールでのカリキュラムで大切なことが、「指示」ではなく「相談」から入ることなのではないかと思います。自分の判断には責任があります。しかし、その責任を抱えたうえで行わなければ、「誰かのせい」にしてしまういわば「他律」になってしまいます。仮にうまくいかないと誰かのせいにし、うまくいっても「あの人の言う通り」というように自分にかけってきません。つまりあくまで、ポジティブに自分のことを考えてなければいけないのです。そして、以前のチェスの生徒のように考えるためのネガティブと根はポジティブなものが必要であるということです。その根底には自己肯定感といった自分に自信があることが重要になってくるのですね。ワンゴールはこういった要素を使い、子どもたちに「しなやかな心」を持たせようとしているのです。