卒業するためには

ジェームス・ヘックマンの非認知的スキルやディビット・レヴィンのいう「性格の強み」が生徒たちの変化を助ける方法につながり、大学進学した生徒が卒業するために必要な知的技能や性格の強みを伸ばす手助けができるのではないか?という課題が見えてきました。そのことに実際、挑戦したのが「ワンゴール(OneGoal)」のCEOジェフ・ネルソンです。彼の教育改革のビジョンは型破りで、知能至上主義に真っ向から挑むものでした。

 

彼は大学を卒業後、小学校の教師になります。その初日からつねに生徒に大学の話をしました。全員が低所得層のアフリカ系アメリカ人で、大卒の親のいる生徒などほとんどいなかった。しかし、それは問題ではない。とネルソンは保証しました。真剣に勉強すれば大学に行くことも卒業することもできると言ったのです。しかし、その後、シカゴのトリビューン紙の一面にシカゴ学校研究コンソーシアムの報告で、ネルソンが保障した内容が否定されるものが書かれていました。

 

その報告の中にはシカゴの公立高校に通っている生徒で4年制の大学に進んで学位を取得することができるのは100人中8人だというのです。そして、アフリカ系アメリカ人の少年となると確率はさらに下がったのです。シカゴ市内の高校1年生の黒人男子生徒に至っては25歳までに4年制の大学を卒業できるものは30人に1人もいないとあります。この数字を見てネルソンは心穏やかではいられなかった。シカゴ市内で一番の教室を作り出すことができ、高い確率を乗り越える手助けをしたとしても、それだけで十分だろうかといったことが見えてきたのです。そこでネルソンは「高校と大学のあいだのギャップを埋める組織を見つけること、または自分で始める」といったことを模索し始めます。そして、「ワンゴール」という大学入試にむけた予備校のようなところの役員になります。

 

ネルソンは勉強のできなかった高校生が比較的短時間で非常に成績のよい大学生へと変わることは可能であると信じていました。ただし、極めて有能な教師の助けがなければそうした変化を起こすのは不可能に近いという考えを持っており、目的意識を持ったやる気のある高校教師を探します。そして、契約した教師の働く学校から25名ほど選んでクラスを作ります。そこにはテストで高得点をとれる、すでに大学への道が見えているような生徒ではなく、成績は良くないがすくなくとも向上心のひらめきの見える生徒に声を掛けます。その後、当の教師が3年間そのクラスを持ちます。そして、それが終わった4年生の終盤になるとクラスは一日に一度集まり、生徒たちが大学に入って、一年のあいだ、担当した教師が密に連絡を取り続け、質問に答えたり、定期的にオンラインで会議をしたりして、サポートとアドバイスをしていました。

 

そんなワンゴールのカリキュラムには3つの大きな構成要素があります。そして、そこに非認知的能力が出てきます。