悲観と楽観

人は先入観をもって物事を見てしまいます。自分が思っている通りの答えを探してしまうのは「確証バイアス」が働くからであり、この確証バイアスを除いて、お気に入りの仮説が間違っていることを証明することを「反証」と言います。そして、この確証バイアスはチェスのプレーヤーにとっては非常に問題になります。

 

そこでプレーヤーにゲームの最中の盤面を見せ、次の一手として最良のものを考えてもらい。そして、「フリッツ」と呼ばれるチェスの分析プログラムを使って、それぞれのプレーヤーの思考がどれだけ正しかったかを確認しました。すると、当然、ベテランのグループは初心者のグループよりも正確に状況を分析していました。問題は「どのように違ったか」です。一言でいうと、上級者のほうが悲観的だったのです。初級者は気に入った手を見つけると確証バイアスの罠に陥りやすいというのです。つまり。勝利につながる可能性だけを見て、落とし穴は見過ごしてしまうのです。これに比べ、ベテランは隅にひそむ恐ろしい結果を見過ごしません。上級者は自分の仮説を反証することができ、その結果、致命的な罠を避けることができるのです。

 

スピーゲルはどんな動きの結果についても少し悲観的であるくらいのほうがいいという考えには同意するといっています。ただし、チェスの能力全般については楽観するほうがいいと言っています。というのも、どんなに上達しても、死にたくなるほど馬鹿げた間違いをすることは絶対になくならないからであり、自分には勝てるだけの力があると自信を持つこともチェスの上達の一部なのだと言うのです。

 

ネガティブな考えを持つことはあまりよく思われないことが多くありますが、実際のところは必要なことでもあるのです。「反証」というのは「リスクヘッジ」とも言えます。問題点をあぶり出すためにはネガティブな目線は不可欠になります。「確証バイアス」がかかった状態の目線では一つの答えしか見えません。それだけリスクの幅は狭くなってしまうのです。チェスのベテランが悲観的な人が多いのはこういった一手に対するリスクヘッジが多様に見えているからなのでしょうね。また、最後のスピーゲルの「チェスの能力全般については楽観するほうがいい」というのも様々なところで重要になってきます。

 

ここでいう「楽観」というのは「自己有能感」や「自尊感情」がなければ持つことができません。結局のところ、自分自身が悲観的に多様な物事見て、物事に向き合う楽観性と自信を持つバランスが必要になってくるというのです。

 

スピーゲルは生徒たちとチェスクラブに行ったときにその様子を目の当たりにします。その生徒はじぶんより格上の相手と組まされるとき、「終わった」と思った生徒と、「インターナショナル・マスターを破ることだって不可能ではない」と完全に信じ込んでいる生徒を紹介しています。結局は後者の生徒は信念は無謀で馬鹿げたものだったが結局のところ実現したというのです。

 

物事は決して、良いことだけではありません。しかし、思いを遂げるためには信念を持つことはある一定の楽観性を持たせます。