所有物

園に登園してくる子どもの中に、小さなぬいぐるみやおもちゃを握りしめて登園してくる子どもたちがいます。子どもたちは、なぜ、こういった「お気に入りのもの」ができるのでしょうか。先日、東京大学の客員教授であり、発達心理学専門の遠藤利彦先生の講義を受けました。そこで紹介されていたのが、「ライナスの安心毛布」です。このライナスはスヌーピーで有名なチャールズ・モンロー・シュルツが1950年から書き始めた漫画「ピーナッツ」に出てくるキャラクターです。このライナスも毛布を持っている絵があります。

 

この絵を紹介して遠藤氏はある傾向を話していました。こういった所有を求める子どもは「人工乳をする子や時間を決めた授乳、添い寝の習慣がない、別室寝をする家庭」の子どもにこういった特定のものの所有をする子どもが多いようです。つまり、すぐに「おっぱいが貰えない」という状況はストレスがかかります。そして、こういった特定のものを所有する子どもは割とストレスに敏感な子ども、ストレスを感じやすい子どもほど、特定のものを所有する傾向があるのです。確かに、考えてみると、割と園でもそういったものを大切に持っていたり、手放したくないといったような子どもほど、ストレスに敏感であったり、引っ込み思案である子どもが多いように思います。

 

所有物を持つことでストレスを緩和しているのです。このことを単純に見ると、ストレス下にいる子どもがかわいそうに思えてきます。しかし、遠藤氏は果たしてそうなのだろうかと言っています。欧米では「子どもはストレスを解消・調整する力を自ら持っている」と考えられているそうです。そして、その力が「生きる力」だとも言っています。以前、オランダに行ったときに日本人からすると非常に疑問を持つ様子がありました。その園ではお昼寝をする部屋があるのですが、その場所は檻のようなゲージに入れられ昼寝をします。そして、起きて泣いても10分は泣かせておくとも言っていました。泣いたらすぐに抱っこするという日本の感覚からすると違和感を持ちます。しかし、その考えの根底には先に話した能力を子どもは有しているという考えが根底にあるからなのでしょうね。

 

では、実際のところどうなのでしょうか。遠藤氏は赤ちゃんは泣くことですぐにおっぱいをもらえるということで、赤ちゃんは「自分でおっぱいを作れる・何でもできる」といった魔術的万能感を持つそうです。しかし、月齢を重ねていく中で、欲求が多様になってきます。そうすると、当然その欲求に応じてあげることができなくなります。すると、何かを欲してももらえないというストレスを子どもは感じます。このように思い通りにならないなかで、自分は「生かされている」という2者関係を持つようになります。このことを心理学者のウィニコットが20世紀後半に行った研究で、幼児は自分が母親とは別の独立した自我を持っていることを認識し始めると、母親の代わりとなる「移行対象」、つまり安心毛布のような所有物によって安心感を高めることを学習すると言っています。