言葉とコミュニケーション能力

では、赤ちゃんは言葉が出るまでにどのようなやりとりを養育者としているのでしょうか。コミュニケーション能力はどのように発展していくのでしょうか。

 

コミュニケーションには、人と人との情動性に富んだ、間主観的で対人的な調合的統合(親交:communion)のプロセスと、人と人との間の情報の流れ(伝達:transmission)のプロセスが含まれると言われています。つまり、対人的にお互いの気持ちを調整するというプロセスと、お互いに情報を共有するというプロセスがあると言うのです。

 

子どもは言葉でのコミュニケーションにつながるまでに、表情、視線、目の動き、音声、身振りなどでコミュニケーションします。これらの関わりを養育者や他児を通して行っています。そして、こういったことを通じて言葉につながっていくのです。逆にいうと、こういったことができるような環境がなければ言葉の表出につながらなくなる可能性があるということも言えるのです。

 

では、乳児期はどのような発達段階にあるのでしょうか。乳児は誕生時から、人間の顔、音声、スピーチへの関心を示し、生後数分でいろいろな顔の仕草や音を模倣すると言われています。そして、誕生直後の乳児でも人間の言語音と他の音、さらには母親の声を区別して反応できると言われています。視覚的にも人の顔を長い時間凝視します。人は生まれながらにして人に反応する能力を持っているのです。この人の「反応を見る」ということは人間の持って生まれた社会的能力なのです。そして、この能力を使って、養育者や周囲の人とコミュニケーションを取るようになってきます。

 

その後、赤ちゃんは3ヶ月くらいまでに養育者とのやり取りの中で、足、発声、凝視、表情など、全身で行動します。これは、大人の会話の非音声的側面のダイナミックな特徴と類似しているので、「原会話」と呼ばれます。つまり、身振り手振りといったものですね。では、その原会話の特徴はどういったものがあるのでしょうか。その一つは乳児があらわすコミュニケーション行動(たとえば、微笑)は単一の行動だけで起こるのではなく、乳児自身の他の行為(発声、手の身振り、凝視)と協応し、また、パートナーの発声、凝視、微笑などの行為とも協応しています。第二に、乳児は大人を単純に模倣しているだけではなく、大人の方も乳児を模倣します。第三に、情動や注意を力動的にお互いに調整しています。第四に乳児は相互作用をうまく維持しているだけでなく、いやなときにはその関係をうまく避けますと言っています。

 

このことから見ても赤ちゃんはうまく大人とのコミュニケーションを取っていることが分かりますし、「大人からだけ」や「赤ちゃんからだけ」といったやりとりではなく、あくまで「相互作用」の中で関係性が繰り広げられ、そのことが子どもの非言語(身振りや手ぶり、表情や音声)といった表現につながるということがわかります。そのためには養育者と子どもとの信頼関係や愛着が重要になってきます。このことが、保育所保育指針や幼稚園教育要領にある「応答的かかわり」の重要な意図の部分なのだろうということが分かりますね。しかし、この段階のコミュニケーションは感情の表現であり、意図的なものではないと言われています。