礼節あるチーム作り

クリスティーン氏は礼節あるチームを作ることも重要であると言っています。そのためにはまず、「礼節ある人を採用し、礼節がない人を避けておかなければいけない」と言っています。そして、「誤った人間を雇うくらいなら、誰も雇わない」と言っています。「無礼な言動が組織に与える損害は甚大だ」といっている内容はこれまでの中でも言われていました。いくら能力や技術、才能があっても、無礼な人間であれば、その能力で相殺できるものではないのです。これは最近の就職活動においても言えることです。以前、リクルートの方から就職活動について話を聞いたのですが、最近ではいくら優秀な大学を出ても、常識が無かったり、初歩的なやりとりができない人が多くあると言われていました。学歴や成績が先に出てしまっている教育現場において、これはある一種の弊害でもあるのでしょう。社会に出たときに、まずベースとなるコミュニケーション能力や問題解決能力がなければ、いくら優秀であってもその能力が生かされることはないのです。そのため、無礼な人間が入り込まないように細心の注意を払う必要があるとクリスティーン氏は言っています。

 

つぎに、「礼節を高めるコーチングを取り入れる必要性」を言っています。それは「自分が今、何をすればいいかを分からせてくれる。」ものであり、「すべきことを小さな段階に分け、取り組みやすくしてくれるもの」であり、「現状に満足することや慢心して基本を忘れてしまうことを決して許さないもの」を伝えることが大切になるのです。そのためには、こういったことを理解しやすくするための経営理念の共通化が求められます。そして、何よりもリーダーから率先して礼節を守ることでより効果的になるというのです。私は常々、リーダーになる人の意識は部下となる人たちに伝染するということを感じます。リーダーが熱心であれば、部下も熱心になりますし、リーダーが無礼であれば、部下も無礼になる。どこかで管理者とプレーヤーとが区別されるように見られがちですが、そこには明確に影響力が出ているように思います。これは自分自身でも戒めに思っておかなければいけないことだと思っています。チームを作るうえで、自分自身の影響力を各々が感じていなければいけないと思うのですが、それはその組織にいる人それぞれに影響力があることを知ることが「いいチーム」を作るうえで大切なことだということを感じます。これが理解できるのであれば、リーダーがコーチングをするのではなく、同等の社員同士で「私の行動で良いと思うところはどこか、反対に嫌だと思うところはどこか」といった社員同士のコーチングができるようになるのです。

 

真にいいチームというのはこういった「指摘し合える人間関係」というのが理想だと思います。そのことについてクリスティーン氏は「チーム、企業を礼節あるものにするには、まず明確な目標を立てることが必要になる。そして、基本的な動作を反復練習するなど継続的な努力が重要です。ただ、それがすべてではない。どういう言動が望ましいのか、チームや企業にいる人たちの間で意見が一致していることも必要になる。皆でよく話し合い、自分たちはどのような人間になりたいのか、どういう規範に則って行動したいのかを確認し合うようにする」そのためにも、「互いの優しい助け合いが欠かせない。誰かが規範から逸脱していることに気づいたときには、叱責するのではなく、丁寧に指摘し合えるようになるとよい」と言っています。まさに、この関係性はお互いを知っていないとできないことであり、そしてその人自身を尊重してなければできない内容です。

トップパフォーマー

クリスティーン氏は人に感謝の意を表すことは、礼節ある人間になるためには必要なことですが、特に「先頭に立って何か成果を上げた人だけでなく、その人を後押しするために動いた人たち、つまり、陰で会社を前進させる力となった人たちも正当に評価でき、その働きに報いることができないといけない」と言っています。組織の中で働く人たちは、自分の仕事だけでなく、他人と協力し合うための仕事にも時間を使う必要があります。ところが、「社員同士のやり取り」がどのように行われているかを把握する仕組みを持っている企業は少ないと言っています。アイオワ大学のニン・リーらの研究によると、自分の仕事とは関係ない「付加価値のなる仕事」というのは周囲の同僚たちを助けます。こういった「スター社員」はほかの社員すべてを合わせたよりも、会社の業績に大きな影響を与えると言っています。しかし、こういったスター社員の貢献を多くの企業は認識していないと言っています。

 

ある調査によると、他の社員に対して非常に協力的な人たちのうち、社内で「トップパフォーマー」だと認識されているのはわずか50%だと言います。そして、「スター」とされている社員の中には、他人にあまり協力的でない人が20%もいるという。自分の数字をあげ、手柄を立てることばかり熱心で、同僚の成功に貢献しようという人たちなのです。残りの30%の人たちこそ、真のトップパフォーマーといえるのです。

 

しかし、この真のトップパフォーマ―には、どこかで燃え尽きてしまう危険性があると言っています。なぜなら、そういった「縁の下の力もち」として優秀であるというと、それだけみんながその人に対して過剰な要求をしてしまいかねないからです。そのため、20社における企業への調査で、他人と進んで協力する姿勢のある人ほど、最終的には企業に対する帰属意識が下がり、自分のキャリアに対する満足度も低くなる傾向にあると言います。そして、非常に貴重な存在であるにもかかわらず、結局は勤務していた企業を去ってしまい。その人がやめてしまうと、持っていた知識も、人脈も、すべて失われてしまうことになります。また仮に辞めずに会社に残ったとしても、次第に無気力になり、不満を募らせ、それを同僚たちにも広めてしまう恐れがあります。

 

このように他人と協力する態度を評価できる体制になっているかを確認するべきであるが、こういった他人を助けられる人こそ最高とみなし、その努力に感謝できる会社になっているかを確認するべきだと言っています。保育施設においても、こういった「トップパフォーマー」といわれる人はいます。そういう人ほど、よく話をし、聞きに来るのも特徴として挙げられます。そう思うと、「礼節」というのはリーダーには最も必要でしょう。保育の業界は企業と違い、はっきりした業績が見えるわけでもなく、成果が見えにくいです。だからこそ、より人との関係性がよりはっきりしているようにも思います。「礼節」を主題にしているこのクリスティーン・ポラス氏の本は企業だけではなく、保育施設においても、同様に重要なことを挙げているように思います。