変化と気づき

オープン園にするにあたっては3年を通して終日研修が4日間、閉園後の2時間研修が15回ほど行われた。終日研修ではミュンヘン市学校スポーツ局の担当専門職員が講師として研修を行います。最初の研修において職員の一人一人の子ども観について丁寧なすり合わせが行われ、子ども像に対する一致した認識を確認する作業に時間をかけたそうです。そして、子どもの権利という観点から保育の見直しを行い、徐々に無理のない範囲での変化を遂げていきました。

 

こういった子ども観から研修を行うというのも日本では珍しいことかもしれません。どちらかというと、子ども観というよりはどういった保育形態か、どういった活動をするのかということのほうが先にでて、その意図の部分に触れる説明は比較的に薄いように思います。そして、子ども観を重視するよりも、保育観や保育技術、カリキュラムに目が向きやすい印象がまだまだ日本では強いように思います。

 

オープン園にあたっては、はじめ職員の過半数は懐疑的であったようです。というのも、「子どもと先生とのつながりが弱くなるのではないか」とか「年少児がとまどうのではないか?」という点が憂慮されていたのです。しかし、活動が軌道にのり、1年半ほどたったところで、考えが改まってきます。それは子どもの表情が変わってきたからだとベルガー氏は言っています。

 

子どもたちの表情や活動への取り組み姿勢が目に見えてポジティブに変わってきたのです。特に一斉保育において消極的な立場の子どもたちが変わったといいます。遊びの選択肢、遊び相手の選択肢、関わる先生の選択肢などが広がることにより、園がより心地よい場所に変わっていることが実感できたといいます。この気付きによって、子どもと先生との絆が弱まる可能性は、実は子どもの側からの問題ではなく、先生側の視点だったことということを理解したといいます。先生の「子どもとつながっていたい」という気持ちや、「子どもの行動のすべてを把握しているのが良い先生である」という考えに縛られていたのではと思うとベルガー氏は言っています。

 

そして、「オープン園」は目指すべき完成形がないといいます。そして、それは在籍する子どもたちや職員の一部交代もあり、社会的環境も変化するからで、環境が変化すると親の要望や子どもの欲求も変化し、それによって園のあり方も改善していくことが望まれるのです。そのため、オープン園運営の基本は「変化への柔軟な対応」であるとベルガー氏は言います。

 

この「柔軟性」というのは保育をする上で非常に大切なことです。子どもはそれぞれ違います。毎年同じことを行っていても、それが今の子にあっているかというとそうではないのです。そのため、それぞれの子どもたちにあった環境を作らなければいけません。しかし、先生主導ではそれを設定するのは難しいのです。だから、子どもたちが選択できるだけの環境を作らなければいけないのです。そこには保育の視点の変更が求められます。ベルガー氏がいうように「実は子どもの側からの問題ではなく、先生側の視点だったことということを理解したといいます。」といったことに気づくことが重要になってきます。主体がいつの間にか、子どもではなく先生の側になっていることはよくあります。そうなっている自分に気づくことが柔軟性を持つ大きな一歩なのかもしれません。