感情統制の必要性

非行少年は感情統制に問題が多く、多くのストレスを感じているということを宮口氏は言っています。しかし、これらは非行少年に限ったことではありません。イジメ被害や人との関わりにおける被害意識、自分に自信がないことや相手に対する固定観念。これらのことが紹介されていましたが、そのどれもが非行少年に限らず、私たちそれぞれにも日常的に起きるストレスであります。

 

宮口氏は感情統制の大切の理由のもう一つは「感情は多くの行動の動機づけになっている」ということを言っています。つまり、人は「こういったことをしたい」「○○をしたい」という気持ちがあるから、何らかの行動が生起されるというのです。無条件反射を除くと、感情が人間のほとんどの行動を支配しているというのです。つまり、保育でいう「心情・意欲・態度」ですね。まず、心情(やってみたい)という気持ちがあるから、意欲(やってみようかな)という気になり、態度(やってみる)という行動につながるということですね。そもそも、その瞬間の気持ちがなければ行動は写されないのです。

 

ただ、非行少年によっては「ストレス発散に、○○をしたい」という文章の○○に「万引き」「痴漢」などといった不適切な言葉が入る場合があるというのです。不適切な感情が不適切な行動を生み出してしまうのです。ここが普通の人の感情統制とはちがうのかもしれません。一定のブレーキが利かなくなっているのです。仮に思ったとしても、そこで留まれるのと、そうではないのとでは大きく違うのです。

 

宮口氏はその時の対処として①ストレスがたまらないように生活を見直す。 ②○○に「スポーツ」「買い物」などを代わりに入れる ③○○したい気持ちを下げる といったものが考えられると言っています。①と②はその場ですぐに対応できるものではなく、時間と労力が必要ですが、いったんうまくいけば効果が生まれます。一方で③は気持ちを下げればいいので即効性がありますが、どうやって不適切な気持ちを下げるかが大きな課題になります。「○○したい」という気持ちは、その人間のそれまでの生育歴、生活パターン、思考パターン、対人関係パターン、倫理観などが関係してきます。これらを考えることはなかなか困難です。認知康応療法はおもに不適切な思考パターンを振り返ることで、修正を図っているのだと宮口氏は言っています。

 

つまり、私たちの場合、不適切な行動をする前に、一度その行動が適切かどうかを振り返ります。それこそが認知行動療法と同じプロセスと言えるのです。しかし、その時に「怒り」によって感情統制がとられない場合には勢いに任せて正常な判断ができず、振り返る前に行動に移してしまうということになるのでしょう。これはDVを働いてしまう人や、万引きをしてしまう人にも同じことがいえるのでしょうね。

 

今の人は以前、ポール・タフ氏の著書にあったようにメタ認知(思考についての思考)が弱いのだと思います。やはり宮口氏の著書の内容を見ていても、ポール・タフ氏が挙げているような「性格の強み」というのは教育現場においても、子どもを育てる環境においてももっと考えていかなければいけない内容であるように思います。