非行少年の特徴

宮口氏はこれまで数百人の非行少年と面接を繰り返した中で、非行少年の特徴の背景にあるものを6つに分類し、「非行少年の特徴の5点セット+1」としてまとめました。保護者の養育上の問題は特別として、彼らの特徴は、これらの組み合わせの中のどこかに当てはまるのです。①認知機能の弱さ(見たり聞いたり想像する力が弱) ②感情統制の弱さ(感情をコントロールできない) ③融通の利かなさ(何でも思い付きでやってしまう) ④融通の利かなさ(なんでも思い付きでやってしまう) ⑤不適切な自己評価(自分の問題点が分からない)⑥対人スキルの乏しさ(人とのコミュニケーション)が苦手 ⑥+1身体的不器用さ(力加減ができない、身体の使い方が不器用)などがあげられと言います。ちなみに「+1」の身体的不器用さについては、小さい頃からスポーツなどを経験し身体機能が優れ、不器用さが当てはまらないケースもあるため、「+1」という表現になってます。

 

まず、一つ目の認知機能の弱さです。これは以前紹介した図を写した事例のように見る弱さが見られます。相手の表情をしっかり見ることができないので、相手がにらんでいるように見えたり、馬鹿にされているように感じとったりして、勝手に被害感を募らせてしまうというのです。ほかにも聞く力が弱いことも同様に想定されます。誰かがブツブツと独り言を話しているだけでも、「あいつが俺の悪口を言っている」といった誤解につながるのです。

 

認知機能は、記憶、知覚、注意、言語理解、判断・推論といったいくつかの要素が含まれた知的機能を指します。人は五感(見る、聞く、触れる、匂う、味わう)をとおしいて外部環境から情報を得ます。それを基に計画を立て、実行し、さまざまな結果を作り出していく過程で必要な能力が認知機能だと宮口氏は言っています。これらの認知機能は受動・能動を問わず、すべての行動の基盤でもあり、教育・支援を受ける土台でもあるのです。しかし、もし五感から入った情報がすでに間違っていたり、受け取った情報を間違って整理したり、情報の一部しか受け取らない情報になっていたりしたら、どうなるのでしょうか。

 

学校の教育現場においては、五感において「見る力」と「聞く力」を通して情報が伝えられます。しかし、前述のとおり非行少年のように「見る力」や「聞く力」が歪んでいたらどうなるでしょうか。又は「見る」「聞く」ための情報が正しく入ったとしても間違って整理(認知)されていたらどうなるでしょうか。そうなった場合、こちらが伝えたい情報が性格に子どもに伝わらず支援が空回りしたり、子どもがどんなに一生懸命計画を立てて、頑張っても最初の情報が歪んでいるので、明後日の方向に向かって進んでしまうという結果を招くのです。また、「見る力」「聞く力」を補う「想像する力」が弱いと、それらを修正することもうまくいきません。これが認知機能の弱さが引き起こす「不適切な行動」につながっていると考えられるのです。

 

非行少年たちの認知的機能もさることながら、彼らの被害感を持つこと、ネガティブな思考を持っていることに注目してしまいます。また、こういったネガティブな思考になった根底に、認知機能の遅れや空回りといった経験がこういった思考につながっているようにも感じるのです。まさに「オプティミストはなぜ成功するか」のなかでセリグマンが言っている「失敗の原因について悲観的な思い込み」に近いような感覚です。これは認知療法のように逆説で人を見る見通しを持つことも必要になってくるのでしょう。私は人が本来の自信をもつためには成功体験を持つことと思っています。そして、本来の自信とは図に乗ることとは違います。そのためには自分で考え、行動し、実現するプロセスが必要だとも思っています。ここで言われる「認知能力の弱さ」というのは周りの環境によって、その子どもそれぞれに合わせた理解度で行動や活動できる幅が教育現場や保育現場においてこういった環境がないことを意味しているように思います。