見えてくるもの

宮口氏は非行少年に対して、試験を行う中で見る力の弱さから、聞く力の弱さも見つけていきます。そして、本来は支援されないといけない子どもたちがなぜ、このような凶悪犯罪を起こしたのかそこが問題だと言っています。宮口氏がこれまで多くの非行少年を面接してきた中で、少年たちになぜ凶悪犯罪をしたのかを尋ねても、難しすぎてその理由を答えられないという子がかなりいたというのです。更生のためには自分のやった非行としっかりと向き合うこと、被害者のことも考えて内省すること、自己洞察などが必要です。しかし、そもそもその力がないのです。反省以前の問題が非行少年にはあったのです。

 

先ほどもいったとおり、ここで出てくる非行少年たちは本来支援されなければいけません。しかし、こういった少年たちの中で、幼いときから病院を受診している子はほとんどいないと宮口氏は言います。かれらの保護者・養育環境はお世辞にもいいとは言えず、そういった保護者が子どもの発達上の問題(絵を写すのが苦手、勉強が苦手、対人関係が苦手など)に気づいて病院に連れていくことはないからです。病院に連れて来れられる児童は家庭環境もそこそこ安定しており、その親も「少しでも早く病院に連れていって子どもを診てもらいたい」といったモチベーションを持っているのです。しかし、非行化した少年たちに医療的な見立てがされるのは、非行を犯し、警察に逮捕され、司法の手に委ねられた後なのです。一般の精神科病院にこういった少年たちはまずいないのです。

 

なぜ、こういった児童や少年たちが生まれてしまうのでしょうか。宮口氏はそこに家庭環境の差を話しています。経済的なものもあるのでしょう。しかし、まずは「少年を早く病院に連れていって子どもを診てもらう」という子どもに対する見方や目線も非常に重要なのでしょう。つまり、親である身近な大人がその子どものことをよく見ていなければいけなく。こういった生きづらい子どもたちが、どう支援してあげると社会に出た時に困らないような発達ができるのか、そのための環境作りができるのか、これは今の社会では非常に重要な問題でもあるように思います。

 

宮口氏は医療少年院で新しく入ってきたすべての少年たちに、毎回2時間ほどかけて面接をします。通常非行少年には、なぜ非行を行ったのか、被害者に対してどう思っているかということを聞くことがおおいのですが、実はそういったことを聞いても更生にはあまり役に立たないということが分かっているそうです。少年院に入ってくる少年たちは幼少期の長所から見ても、かなりの非行を繰り返しています。宮口氏が少年院に赴任したときは狂暴な連中ばかりなのではないかとビクビクしたそうですが、実際のところは人懐っこく、どうしてこんな子がと思えたそうです。しかし、面接をしていく中で、大勢の少年たちが抱えている共通した問題が見えてきました。それは宮口氏を非常に驚かせ、ショックを受けさせたものです。