学びと非行

非行をしてしまった少年たちはその多くが勉強ができなかったり、人と関わることが苦手と言っています。そして、そういった少年たちは軽度の発達障害や境界知能を持っていることがあり、学校教育の中で見つからないことも多いと言っています。そして、学校教育において、勉強が分からないまま進んでいくことや、こういった子どもたちの様子を救えなかったのが子どもたちにとって大きな影響を与えたのではないかとも言っています。では、そういった少年たちはその後どうなっていくのでしょうか。そういった子どもたちを救うことはできないのでしょうか。

 

世間一般では少年院に行くような少年は、手が付けられない悪で、社会に出てもどうしようもないように思われていたりします。確かに少年院経験者は再入院率は低くはなく、成人になると刑務所にもかなりの割合で入所します。中には何度も入所を繰り返す累犯者もいます。そういった少年たちは勉強ができないとはいえ、勉強が嫌いなのかというと、決してそうではないと宮口氏は言います。

 

少年たちは宮口氏が過去何十年も見る力や聞く力を養うための、頭を使うグループトレーニングをしていくなかでの少年たちの様子を紹介しています。トレーニングは1回2時間ほどかかるのですが、予想に反してほぼ全員が、2時間飽きることなく集中して取り組めたと言っています。その中にはADHD(注意欠陥多動症)の子どもたちもいましたが、それでも集中していたそうで、その姿は外部から見学に来た先生方が「まさか2時間もじっと座っていられるなんて信じられない」というほどでした。このトレーニングが噂となり、他の非行少年たちも仲間に入れてほしいと頼んできたほどだというのです。つまり、非行少年たちは学ぶことに飢えていたのです。そして、認められることに飢えていたのです。非行少年たちでもいくらでも変わる可能性はあると言います。では、どうすれば非行を防げるのでしょうか。そして、どのような教育が効果があるのでしょうか。非行少年たちはどういったところに悩んでいるのでしょうか。

 

まず、前回にもあったように、少年たちは「簡単な足し算や引き算ができない」「漢字が読めない」「簡単な図形が写せない」「短い文章すら復唱できない」という少年が大勢いたことです。とりわけ、宮口氏が注目したのが本書「ケーキの切れない非行少年たち」と題名にもあるようにケーキを等分に切れないことに非常に驚いたそうです。A4の用紙にまず初めに「ここに円いケーキがあります。3人で食べるとしたらどう切りますか?みんなが平等になるように切ってください」と問題を出します。すると、粗暴は少年はまず縦に半分に切ってその後「う~ん」と悩みながら固まってしまったのです。悩んだ末できたのが図2-1のような切り方でした。他の少年にも切ってもらうと今度は図2-2のような切り方になりました。そこで「では、5人で食べるときは?」と尋ねると彼は素早く円いケーキに4本の縦の線を入れ今度は分かったと言って得意そうに図2-3のように切ったのです。しかし、5つに分けていますが、5等分ではありません。そこで「みんな同じ大きさに切ってください」というと、再度彼は悩んだ挙句あきらめたように図2-4のような切り方をしたのです。

 

このような切り方は小学校低学年の子どもたちや知的障害をもった子どもの中にも時々見られますので、その図自体は問題ではないのですが、このような切り方をしたのが強盗、強姦、殺人事件など凶悪犯罪を起こしている中学生・高校生の年齢の非行少年たちだが書いたということが問題なのです。小学校低学年の子どもたちでも書くことができる三等分という切り方。宮口氏はこの図をみて、彼らに非行の反省や被害者の気持ちを考えさせるような従来の矯正教育を行っても、ほとんど右から左へと抜けていくのも容易に想像ができると言います。そして、それは犯罪への反省以前の問題だと言います。そして、こういったケーキの切り方しかできない少年たちが、これまでどれだけ多くの挫折を経験したことか、そしてこの社会がどれだけ生きにくかったことかもわかると宮口氏は言います。

 

さらに、そういった彼らに対して「学校ではその生きにくさが気付かれず特別な配慮がなされてこなかったこと」、そして、不適応を起こし非行化し、最後に行きついた少年院においても理解されず「非行に対してひたすら反省を強いられてきたこと」が問題だと言っています。