非行と実行機能

宮口氏はルーティンの中の面接で少年たちにどうして非行をしたのかを尋ねてみます。するとみんな、「後先のことを考えていなかった」と、口をそろえたかのような答えが返ってきます。そして、今後の目標として「これからは後先のことを考えて行動するようにしたい」と答えます。この「後先のことを考える」力は計画力であり、専門用語で「実行機能」と呼ばれています。ここが弱いとなんでも思い付きで行動しているかのような状態になります。彼らは「下0向きのソフトを買う金がなかったから人を刺してお金を奪った」「女の子に興味があったけど同級生は怖いから幼女を触った」と思い付きに近い非行をやっていたのです。

 

宮口氏は次のような質問を少年に投げかけたと事例を挙げています。「あなたは今、十分なお金を持っていません。1週間後までに10万円用意しなければいけません。どんな方法でもいいので考えてみてください」と問いかけます。すると親族から借りる、消費者金融から借りる、だまし取る、銀行強盗するといったものがでてきます。「借りる」という選択肢と「盗む」という選択肢が普通に並んで出てくるのです。「盗む」という選択肢は後が大変になります。そして、うまくいくとも限りません。というように判断するのが普通でしょうが、そう考えられるのは先のことを見通す計画力があるからです。

 

先のことを考えて計画を立てる力、つまり実行能力が弱いと、より安易な方法である盗む、だまし取るといった方法を選択したりするのです。世の中には「どうしてそんな馬鹿なことをしたのか」と思わざるを得ないような事件が多いのですが、そこにも「後先を考える力の弱さ」が出ていると言います。非行少年たちの中にも、見通しを持って計画を立てる力が弱く、安易な非行を行ってしまう少年が見られたと宮口氏は言っています。

 

「実行機能」という文字が出てきました。以前、ブログにも書いた「失敗する子・成功する子」にもこの「実行機能」は取り上げられており、そこでは「感情をコントロールする力」であったり、自分の思考をコントロールする力であったりというように紹介されていました。自分をコントロールするということがある意味で見通すことにもつながるということなのだと思います。また、マシュマロ実験のように幼児期に自分の感情のコントロールができることが将来の子どもの成功にも大きな影響が出るということが言える。将来の犯罪歴に関しても、このマシュマロ実験において、待てなかった子どもたちが統計的に犯罪歴が高くなるということが言われていました。そして、その中で待てない原因、見通し、待ち方、自分の感情のコントロールができなかったことに原因があり、その力こそが実行機能とポール・タフ氏は言っていたのです。間違いなく非行と実行機能の関係性はあると言えるのだと、宮口氏の本書を読んでいても分かります。