失敗と距離感

タフ氏は自分の息子がまだ小さかったころに一番影響を受けたのはマイケル・ミニーのラットの実験だったと言います。これは以前にブログに書いた高LG(子どもをよく毛づくろいしたり、なめたりしたグループ)と低LGのグループのラットの比較から子どもに親の影響がどれくらい出るかという研究です。

 

タフ氏は赤ん坊だった息子と遊んでいるときにミニーの実験の子ラットのことを思い出していたそうです。そして、高LGの母ラットとは人間ではどういったものだろうかと考えたのです。それは常に心配そうに子どものまわりにいるヘリコプターペアレンツとは違いますし、絶えず毛づくろいやなめまわしたりもしません。母ラットがそうするのはある特別な状況。それは子ラットがストレスを感じたときだ。まるで大事なスキルを教え込もうとしているかのようだったのです。刺激を受けたストレス対応システムをうまく管理して休止状態に戻す方法だ。人間の幼児でこのスキルにあたるのは、癇癪を起したあとやひどくおびえた後に落ち着きを取り戻すことだとタフ氏は思い、それを息子にエリントンに覚えさせようと集中します。

 

しかし、人間の場合、ラットのようになめたり、毛づくろいすることがその行為ではありません。人間の場合、高LGに相当する行為があるとすれば、慰めたり、ハグをしたり、話しかけたりして安心させることのはずです。タフ氏は妻と一緒に息子に対し、そういった行為をたくさんしました。それが息子の性格に、そして、最終的な幸福と成功に、他の何をするよりも大きな違いを生むはずだと予測していたからです。

 

しかし、息子が大きくなるにつれ、大多数の親たち同様に気づいたのが、愛情やハグ以上のものが必要になってきました。それは規律、規則、限度などです。はっきりとノーと言える人間が要るようになったのです。そして、なによりも必要だったのが子どもに見合った大きな逆境、転んでも一人で、助けもなく起き上がる機会でした。タフ氏にとってはこのことの方が難しかったと言います。子どもにすべてを与えたい、子どもをすべての害悪から守りたいという衝動と、本当に成功者になってほしいならまずは失敗させる必要があるという知識との葛藤です。もっと正確に言えば、失敗を何とかすることを学ばせる必要があるのです。失敗をどう扱い、失敗からどう学ぶかを知ることの重要性はポール・タフ氏の本からこれまでのブログで紹介してきたところです。

 

この葛藤は親としては当然なのだと思います。子どもを大切にしたいからこそ、さまざまな困難から子どもを守ってあげたい。自分が苦労した人間であればなおさら子どもにそんな苦労を味あわせたくないという気持ちは親として当然の感情です。しかし、その失敗を持たないことが子どもの自制心や自律心を阻害し、結果として子どもたちの将来のためにならないのであれば、大人はどう子どもとの距離感を取ればいいのでしょうか。保育においても、子育てにおいても、このことはよく考えなければいけません。今の時代、少子高齢化が進み、子どもの数よりもそれを取り囲む大人の数のほうが多くなっています。そのため、子どもの自由というものに対して、大人の管理が行き届きすぎているのかもしれません。