子どものエピソード記憶

前回までの内容のように、子どもたちの頭の中でエピソード記憶というのは起きているのでしょうか。ゴプニックは赤ちゃんでもエピソード記憶を持つことがありますが。それは大人のエピソード記憶とは少し性質が異なると言っています。そして、大人と同じようなエピソード記憶と似たものができるようになるのは5歳ぐらいで、これとは並行して内部意識のほうも変化していくと言っています。

 

これまで心理学者の中では赤ちゃんはエピソード記憶は持たないと考えられていました。しかし、赤ちゃんでも特定の出来事については赤ちゃんも具体的に記憶できていると実験によってわかってきたのです。その実験では、実験者が箱におでこをつけると箱が光るという場面を赤ちゃんに一回だけ見せておきます。そして、1か月後、同じ赤ちゃんに再びその箱を見せると、赤ちゃんは前かがみになり、おでこを箱につけるのです。つまり、一カ月前の出来事をはっきりと記憶していたのです。

 

他にも、よちよち歩きができるようになった1、2歳の子は、過去の具体的な出来事を言葉で示すこともできます。ゴプニックの息子が、1歳半のとき、訪ねてきた祖母と、ある晩、夜空の星や月を眺めていました。1か月後、祖母がまたやってくると、まだ昼間なのに「月」と叫んで、その腕を引っ張り、外に連れ出そうとしたのです。1ヶ月前に体験した出来事を思い出し、また、その行動をしたいと思いだしたのです。

 

ロビン・フィバッシュは、母親と一緒に動物園へと行く子どもの日常のひとこまを記録し、数日後、その子にそこでの出来事を聞いてみました。すると、2歳児は「象がウンチをしていたよ」などと非常に具体的なことを答えるのでした。ところが、その子が答えた内容は、動物園で母親の口から出たことをほぼそっくり引き写したもので、母親が言ったこと以外のことは覚えていなかったのです。ゴプニックはエピソード記憶はあくまで、自分の体験した自分だけのもので、他の人の記憶ではないと言います。そうすると2歳児のエピソード記憶はその子自身の記憶であると同時に、母親の記憶でもあったのです。これが5歳の子では、体験した複雑な出来事を記憶し、自分の言葉で答えられるようになります。

 

これと同じ実験をさらに条件をコントロールして行ってみると、3歳とそれ以上とでは、記憶の種類が違っているらしいことが分かってきました。

 

赤ちゃんのような幼い子どもでも、人の顔を覚えることや物を覚えることがあります。当然そういった記憶力があるというのは子どもを見ていなくても、誰しもが分かっていることです。しかし、エピソード記憶のような自分の体験を記憶するということも改めて考えると、わかってはいても、それほど複雑な記憶を駆使しているということに驚きます。