意識と抑制

赤ちゃんと大人の注意の違いは外因性注意の方が優位であるとことだけではありません。赤ちゃんは大人のように抑制できないのです。乳幼児は集中力が弱く、余分な情報にも心を閉ざせません。視野の端に入ったことも、簡単に注意をそらす傾向があるのです。

 

乳幼児は大人のように集中することは苦手ですが、たまたま見つかった情報を拾うのは上手です。たとえば、記憶を試す課題では、カードの束から一度に2枚ずつを見せ、右側のカードはいいから、左側のカードに何と書かれているかだけを覚えるように言い、左側に注目させます。そして全部終わったところで、左右両方のカードの内容を子どもに聞きます。すると年長の子どもは左側のカードの内容を右側のカードよりよく記憶していて、大人のように注意の対象外の情報を抑制していることが分かります。そのうえ、幼い子どもよりも左側のカードの内容を覚えています。ところが、幼い子どものほうは、左右の記憶の差が少なく、注意していなかったはずの右側のカードの内容を年長の子どもよりよく記憶しているのです。

 

幼児と「神経衰弱」をした場合、この能力に気づかされます。このゲームのコツは、自分がめくったカードだけでなく、他の人がめくったカードもちゃんと見ておくことです。幼児はこれが驚くほど得意で、大人のほうが負けることも珍しくありません。あるいはまた、そのときは、話を聞いていないように見えたのに、しばらくしてから大人の会話から拾った言葉や考えを突然口にし、周囲を驚かせるといったことがあります。

 

つまり赤ちゃんは、世界の何を見るかを、自分で決めるというより、世界の方が決めているのに任せているのです。また、どこに注意を向け、どの情報を遮断するかを決めてしまわないで、多くのことを同時に意識しているようです。特定の対象についての有益な情報だけを拾うのではなく、赤ちゃんの周囲のものすべて新しい情報を集めまくるのです。

 

まさに広く浅く情報を取り入れるというのが赤ちゃんの意識思考だようです。幼児の「神経衰弱」のゲームでは実際に経験したことがありました。私の記憶にある子どもは木製の神経衰弱のゲームでしたが、気の木目やへこみ、ちょっとしたシミをすべて覚えてしまい、神経衰弱としてのゲームではなく、ほぼ暗記されたカードをひっくり返すような作業になっていました。大人も一度間違えてしまうと、すべてを取られてしまうようになってしまい、大人もあっさり負けてしまうという子どもがいました。確かに、こういった経験はどこにでもあり、心当たりがあることが多々あります。

 

外因性注意の優性と抑制をすることがまだできていないこと、この二つにより乳幼児の子どもたちは集中ができないように「そもそも」なっているのです。乳幼児においてはそれだけ広く、すさまじい情報量を子どもたちは頭の中に入れているのでしょう。