赤ちゃんの強い意識

赤ちゃんが広い範囲に注意を払うことで、様々なことを学習していくということが分かってきました。これは因果マップを作るときも同様で、統計パターンにおいても、ちょっと変わるだけで新しいマップを作っていきます。ゴプニックはこのように赤ちゃんは情報の有益性とか重要性に関係なく、興味深い出来事でさえあれば、その情報をことごとく吸収していくと言っています。そのため、乳幼児は大人よりも早く、楽々と新しいマップを作り、古いマップを修正していけるのです。

 

神経科学の研究からみても、赤ちゃんの脳にはアセチルコリンが豊富に存在する一方、抑制性の神経伝達物質は、もう少し成長しないと見ることができないのです。そして、興味深いのは赤ちゃんに麻酔をかけるときには、大人より高濃度の麻酔薬が必要なことで、これも理由は麻酔が神経伝達物質に作用するものだからなのです。意識を示す定義に「麻酔をかけるとなくなるもの」というのがあります。このことと高濃度の麻酔が必要というのを関連付けて考えると、赤ちゃんは大人よりも意識をなくすための「謎の物質」を持っているということが言えるのです。

 

さらに赤ちゃんの脳には、大人よりもずっと柔軟で可塑性があるという特徴があります。たとえば、子どもは怪我や病気で脳を損傷しても、大人より早く、しかも十分に回復するようです。大人の脳にはそれほどの柔軟性はありません。老犬に新しい芸は教えられないと言いますが、それは老いた脳に新しい芸を覚えさせるのも一苦労になるのです。

 

また、内因性注意の実験でサルにジュースをあげる際、特定の音が鳴るとジュースがもらえ、体に触れるとジュースが貰えない場合、サルは音が鳴ることに注意するという実験がありました。この実験を赤ちゃんサルに行ったところ、この実験で対象となった大人のサルとは違った結果が見られたのです。子どものサルの脳は大人のサルの脳のように、聴覚でとらえた出来事と触覚でとらえた出来事を区別していなかったのです。全体に注意が向いていたのです。これは人間の赤ちゃんが一つのことに集中できないのと似ています。さらにやり方をかえて、決まったパターンで大音響にさらすなど、一部の刺激だけに注意が向かわないように大量の刺激を浴びさえたときも、子ザルの脳細胞には変化が起こりました。報酬が貰えなくても、脳は音に反応して変化したのです。大人のサルでは、こういった脳の一般的可塑性は認められませんでした。

 

これらの実験の結果から見ても、赤ちゃんは大人よりも強い意識を持っており、大人よりも貪欲に様々な出来事を取り入れているということが分かります。