乳児の心の理解

ゴプニックは1歳の赤ちゃんでも、物事への反応によって、人と物を判別していると言います。心理学者スーザン・ジョンソンはどう見ても人間ではない土くれのような塊を作り、赤ちゃんが声を立てれば鳴き返し、赤ちゃんが動けば光るというふうに、赤ちゃんの行動に随伴した反応をさせました。さらに、まったく同じものをもう一体作り、こちらは赤ちゃんの行動とは無関係に勝手に鳴いたり光ったりするようにしました。塊の行動と赤ちゃんの行動の関係を変えたのです。

 

次にそれぞれの塊をクルリと回し、赤ちゃんと正反対を向かせました。すると赤ちゃんは自分に反応して鳴いたり光ったりする塊が「見ている」方向は目で追いますが、そうではない塊の「目線」は追いませんでした。赤ちゃんは、自分に反応する塊だけに物が見えていると考えたのでしょう。赤ちゃんは自分に反応する塊に対して、より多く発声したり、体を動かしたりしました。さらに赤ちゃんは、自分に反応する塊には意図があり、願望を持つとも考えたようでした。

 

以前紹介したダンベル実験でも、大人がおもちゃのダンベルを切り離せないのを見た赤ちゃんは、その人がやろうとしていた意図を理解し、ダンベルを受け取るとこれを切り離しました。ジョンソンはこれと同じことを機会にやらせ、それを赤ちゃんに見せても、赤ちゃんはダンベルを切り離そうとはしませんでした。ところが、その機会に反応性をもたせ、鳴いたり、光ったりできるようにすると、赤ちゃんはその機械がおもちゃを切り離したがっているかのように振る舞いました。このように赤ちゃんは、反応するものであれば、かなり奇妙な姿をしたものでも心があると考え、鳴き声や光、動きのパターンはそれが見たいもの、したいことを表しているのだと思い、それに応じて振る舞ったといいます。

 

人と物との区別というのはあまりこれまで考えたことはなかったですが、確かに赤ちゃんはものと人とを明確に区別しているというのは分かります。しかも、反応するものであれば、光でも泣き声でも、動きのパターンでも、その意図を理解し、それに応じて振る舞いをしたと言います。それだけ、物においても、「心」があったり、「意図」があるということを理解しているのです。

 

では、次に幼児はどのようにして心の理解を示すのでしょうか。赤ちゃんにおいては相手に意図や心があるということが先ほどまでの様子で見えてきました。幼児は4歳になると「他人の心の統計的パターンから推論できるようになる」ということがブリケット探知機と同じ手法で行われた実験で見えてきました。