2月2021

提言の問題点

小西氏はテレビ視聴の提言について「発語は早ければよいというものではない」と言っています。それは発語が遅い子どもは「スロースターター」「レイトスターター」といって、むしろ後から急速に言語の数が広がることがあるからです。昔は「おばあちゃん子は言葉が遅い」とか「一人っ子は言葉が遅い」と言われていたそうで、発語の早さで善し悪しを決めたりはしなかったのです。発語の時期は、標準の範囲内であれば問題はなかったのです。こういった背景を考えないまま、テレビ視聴は発語を遅らせるという印象だけが前に出てしまうとかえって親の不安をあおるだけになります。これが小西氏野言う提言の問題点の一つです。

 

二つ目問題は「日本小児科医会の提言が、1999年にアメリカで出された小児科医らの警告に基づくものである」ということです。このことはあくまでアメリカで行われたもので、十分な検証がされていないのです。また、毎日新聞が出した、赤ちゃんが視線を逸らすということについても問題点があります。これは赤ちゃんの発達において生後三か月以降の赤ちゃんは「サッカード」と呼ばれる目をそらす状況にあるのです。つまり、このことだけを見ても「テレビの影響を受けていると断言できるものではないのです。

 

これは生後1か月の赤ちゃんは物の全体を見ます。物の存在を見ます。そして、ものを見てもすぐに目をそらす傾向にあります。生後2か月頃の赤ちゃんは物に焦点を合わせると、しばらく目をそらさずにじっと見つめます。そして、3ヶ月以降の赤ちゃんは、視線が急に動かす運動ができるようになり、視線を急に動かす目の運動できるようになり、物と物と見比べることができるようになるのです。このことから見ても、4カ月児が目をそらすのは視覚とそれに関係する脳機能が正常に発達しているあかしでもあるのです。こういった問題点を踏まえて考えると単にテレビの視聴によって起きているということを安易に信じるのは問題であると言えるのです。

 

ただ、テレビ視聴の問題は確かにあるようで、小西氏が過去に見た3歳半の男児は、言葉が少なく、この年齢にしては理解力にかけていて、他人との意思の疎通が難しい様子でした。しかし、自閉症や軽度発達障害の症状も見られなかったので、日常の生活を母親に聞いてみたところ、日中のほとんどをテレビを見て過ごしていたそうです。そこで小西氏はテレビ視聴を減らし、視聴以外の時間に人との関わりを増やすように助言をした結果、会話やコミュニケーションに改善の兆しが見られたそうです。確かにテレビ視聴が子どもに影響を及ぼすことは確かにあるのです。

 

そんな中、今回の小児科学会の提言において「見せすぎが良くないのは当然」という話の一方で、「育児そのものを否定された気がする」と敏感に受け取った親もいたそうです。というのも、最近の日常生活において、幼い子どもが親のそばにくっついていると家事ができないことや、天気の悪い日に外に出られず子どもがストレスを発散する場がない時にテレビは、唯一親が少し目を話しても安全だという親の意見もあるのです。一概に「テレビは発達に影響がある」と言われてしまうと忙しい家事の中で、テレビを利用するといった環境下で育てている親は罪悪感を感じてしまうのと同時に親を追い詰めてしまうことにも繋がるのです。

赤ちゃんのテレビ視聴

次に小西氏が注目しているのが、子どものテレビ視聴です。日本小児科学会が「乳幼児のテレビ・ビデオの長時間視聴は危険です」といった提言を小西氏がこの本を出した2004年に出しました。そして、この背景には「言葉の遅れや表情が乏しいといって受診した子どもたちの中に、テレビの視聴をやめると改善が見られた」という小児科医や発達の専門家からの提言があったからです。

 

では、この提言の内容はどういったものがあるかというと、①2歳以下の子供には、内容や見方によらず、テレビ・ビデオを長時間見せないようにしましょう。長時間視聴児は言語発達が遅れる危険性が高まります。 ②テレビはつけっぱなしにっせず、見たら消しましょう。 ③乳幼児にテレビ・ビデオを一人で見せないようにしましょう。見せるときは親も一緒に歌ったり、子どもの問いかけに応えることが大切です。 ④授乳中や食事中はテレビをつけないようにしましょう。 ⑤乳幼児にもテレビの適切な使い方を身につけさせましょう。見終わったら消すこと。ビデオは続けて反復視聴しない。 ⑥子ども部屋にはテレビ・ビデオを置かないようにしましょう

 

それぞれの提言はこういったものでした。日本小児科学会の研究では、1歳5か月~1歳7カ月の子ども1900人をテレビ視聴が①4時間未満②4時間以上③家族が八時間未満④家族が八時間以上 の4つのグループに分け、「ブーブ」や「マンマ」などの意味のある言葉(有意語)について調べました。それによると4時間以上テレビを見ている子どもは、4時間未満の子どもより、有意語の発言に1.3倍の遅れがあり、8時間以上テレビがついている家庭では、その遅れが短時間視聴家庭の2倍にも上ることが分かったのです。さらに、テレビを見ながら親が一緒に歌ったり、内容について話し合ったりしなかった場合、親子間の会話をはじめとするコミュニケーションが減少し、言語発達や社会性、運動能力に遅れが見られることも明らかになりました。また、同じ頃、日本小児科医会でも同様の提言を発しています。こちらも基本的に授乳中のテレビやビデオの視聴などについて否定的に書かれています。

 

こういったことを受けて、毎日新聞は4カ月児の母親に対する調査をしています。それによると4カ月児で保護者の目線に視線をそらす子どもは、テレビのついている時間が1日0~3時間で37.5%、4~6時間で65.2%、7~9時間では90%、10時間以上では96.6%でした。そして、4カ月児と10カ月児の母親(840人)のうち、母乳、ミルク、離乳食を与えているときにテレビをつけている人の割合は67%だったと報じています。

 

テレビやビデオ視聴については、よく育児の中で課題として取り上げてられています。しかも、あまりポジティブな内容ではなく、ネガティブな内容です。これはこういった研究を基にして、結論付けられているのでしょう。確かに、テレビ視聴ばかりしていると親子のコミュニケーションは少なくなっていますし、保育の中で見てきた子どもたちの中には、大阪の子どもなのに標準語を話していて、それは「ドラえもん」の影響であったというように、少なからずテレビが子どもの言語発達において、影響がでているのではないかと思う様子を見ることがあります。しかし、こういった提言の中にも問題点があると小西氏は言います。

テレビは悪なのか?

小西氏は小児科学会の赤ちゃんのテレビ・ビデオ視聴の提言について、問題点があると言っています。その問題点の1つ目に、日本小児科学会の優位語の発現率の調査における対象についてです。日本小児科学会の調査では1歳5カ月~1歳7カ月を対象にしています。そして、提言の解説には「1歳6か月頃から大人の言葉を模倣するようになって語彙が急激に増加し、2歳になるころから2語文を話すようになり、言語生活が確立していく」とあります。そうであるならば、調査には2語文を話す2歳半もしくは3歳以降の子どもも対象に入れるべきで、有意語の発語が微妙な時期の1歳5カ月~1歳7カ月を調査しても、テレビやビデオ視聴によって子どもが言語獲得の過程にどのような影響を与えているかを正確に把握するのは難しいのです。また、ある新聞には「通常、1歳から1歳半の子どもは『主語』『述語』の2語文で話すことから、2語文で話せない子どもの割合を4つのグループで比べた」という記述があったそうです。しかし、小西氏は個人差はあるものの、1歳半未満で2語文を話す子どもは稀で、2歳過ぎてようやく有意語を話す子どももたくさんいると言っています。

 

言語獲得というものの対象をどこに置くかで考えることが重要なのですね。これは英語教育の考え方とも似ていますね。子どもが単語を言うことに感動する親がいますが、それは決して「英会話ができている」ことではないのです。言語獲得の過程にどのように影響が出ているのかを考えるとその後の有意語がはっきりとしてくる時期の子どもたちも対象に入れていかなければいけません。それに確かに保育の中ででも、発語に関しては、わりと個人差があります。早い子もいれば、ゆっくりと発達する子どももいます。

 

小西氏も大切な面は「発語は早ければよいというものではない」と言っています。そして、昔の人は「おばあちゃん子は言葉が遅い」「一人っ子は言葉が遅い」と言い、発語の速さで良し悪しを決めたりはしなかったのです。結局、発語においても、「いつできるようになるか」ばかりが取り上げられてしまうと不安ばかりが先行してしまいます。このことは保護者とのやり取りにおいても、もう少しよく考えて話していかなければいけません。

 

そして、2つ目の問題点です。それは日本小児科医会の提言が、1999年のアメリカで出された小児科医らの警告に基づいたもので、十分な検証が行われていないことです。前回紹介した毎日新聞の赤ちゃんが目をそらすという行動ですが、これは「サッカード」と呼ばれる生後3か月以降の赤ちゃんの状態であって、必ずしもテレビの影響とは言えないのです。

 

ここで赤ちゃんの行動の整理を小西氏はしています。まず生後1ヶ月頃の赤ちゃんは物の全体を見ます。そして、ものを見てもすぐに目をそらす傾向があるのです。生後2か月になるとものに焦点を合わせると、しばらく目をそらさずにじっと見つめます。3か月以上になると視線を急に動かす目の運動ができるようになり、物と物とを見比べることができるようになります。つまり、「4か月児が目をそらす」というのは、視覚とそれに関係する脳機能が正常に発達することを意味しているのです。

 

赤ちゃんの発達から見るとこの見解を知っているかそうではないかで、今回の提言の見方は大きく変わってきます。発語についても、個人差があることが見えてきましたし、視線においても、視覚と脳機能の発達によって変わってくることが見えてきました。では、テレビ視聴は子どもにとって言語発達に影響はないのでしょうか。小西氏はそんなことはないと言っています。やはり、言語に関してテレビは影響があるのは間違いないようです。しかし、そこには母親の育児とテレビとのバランスを考える必要があると小西氏は言っています。

育児不安

昨今、赤ちゃんの親の虐待や悲惨なニュースは多く見ます。また、産後うつや育児ノイローゼなども最近では多いということをよく聞きます。そして、その多くは「育児不安」が根底の問題にあるということを小西氏は言っています。それほど、今の親は育児に不安や不満を抱えているのだと言います。では、どういった育児が大切であり、幸せな育児を実現するためにはどういったことをしていけばいいのでしょうか。

 

日本労働研究機構が実施したアンケートには約40%の女性が「育児ノイローゼや産後うつではないかと思った経験がある」と言っているそうです。このアンケートの結果が出たからと言って、全員が育児ノイローゼのような神経障害やうつ病のような精神病の症状が出ているというわけではないですが、そうはいっても出産が女性の身体や心に負担をかけているというのは事実です。こういったことは産後赤ちゃんの発育もよく、周囲も協力的で、落ち込む理由がない場合で起きる人はいます。では、そうなってしまう原因というのはどういったところにあるのでしょうか。

 

こういった体調の変化においては、生活リズムの乱れが原因で起こると考えられているようです。1ヶ月検診にきた母親の多くは「自分の時間が取れない」というものが多くあるそうです。赤ちゃんの世話には息つく暇がないうえに、育児の専門家によっては「授乳や抱っこは、赤ちゃんの要求にできるだけ応えましょう」と言われることがよくあります。しかし、赤ちゃんの要求に応え続けると、今度はお母さん側に拘束感が生まれてしまうのです。

 

小西氏は「赤ちゃんとの生活は、互いのリズムやペースの違いにどう折り合いをつけていくかの繰り返しでもある。ですから、疲れているのに無理をして抱っこすることはありませんし、授乳も時には待たせて、赤ちゃんに親の気持ちを読ませるくらいでいいのだと思います」と言っています。

 

「赤ちゃんに対して、愛着関係は大切だから、お母さんはできるだけ応えてあげてほしい」このことはよく聞きますし、実際に愛着関係というものは非常に重要なものです。しかし、母親にとっても、赤ちゃんにとっても、こういったものが拘束感があり、その考えが重荷になるのであれば、もう少しおおらかに育児をしてもいいのかもしれません。小西氏がいう「赤ちゃんに親の気持ちを読ませるくらいでいい」という視点は今の親からすると安心する言葉ではないのでしょうか。完璧で真面目な保護者で、赤ちゃんのためにと思う気持ちが強ければ強いほど、自分で自分を追い詰めてしまうようなことになってしまうのでしょうね。

 

最近では核家族化が進み、祖父母と暮らす親も少なくなっています。こういった育児に対して「大丈夫」と言ってくれる人が今少なく、「こうしなければいけない」といった情報ばかりが多くあるから、保護者にとっても育児が負担になったり、不安になることがあるのかもしれません。情報をどう取り入れるのか、この情報過多の時代において、もう少しおおらかな育児というのも今は必要なのかもしれません。

英語の早期教育の必要性

赤ちゃんの早期教育について、京都大学霊長類研究所の正高信男さんは「ヒトの脳をつかさどる中枢は、最初に習得する言語を基にして第二言語を学習していく仕組みになっている。母国語すらおぼつかない段階で他の言語を同時並行で教えても脳を混乱させるだけ。どちらも中途半端になる」と言っています(2004年7月19日「産経新聞」)

 

やはり、乳児期における英語の早期教育の必要性はどの人においても、あまり重要視されていないどころかデメリットすら起きているという見解が多くあるということが分かります。実際、2歳で園に入園してきた子どもがいました。その子は親の仕事の都合で一年間のうち、半年くらいは海外にいるような子どもでした。2か月ほど海外にいて、また、数カ月日本にいて、また海外へ行くということが繰り返し一年間の中で起きるのです。やはり、その子どもの様子を見ても、日本語は拙い様子でした。日本語での会話においては、感情を表現するときにうまくいかず、癇癪のような形で表現することが多かったのを覚えています。決して、知能的には遅れているわけではなかったのですが、正高氏がいう言葉を使うことに「混乱」という表現が当てはまるような感じであったのを覚えています。

 

英会話教育において、これまでの内容を整理していくと、それほど早期教育を行うことの意味があるのかと考えてしまいます。まず、英語教育にするにあたって、重要な観点として①第一言語を習得した後であること ②本人のやる気が大切であり、意欲のない状態で進めても難しい ③バイリンガルにするように早期教育をするには親にも根気や覚悟が必要になる ④大切なのは「しゃべること」ではなく「しゃべる内容」 であることが分かってきました。小西氏は早期教育の怖さは「効果を求めること」にあると言っています。母国語は日本語で、あくまで英語は第2言語なのです。そのため、あまり興亜を求めずに英語を通して親子の関係を深めることの方が大切なのではないかと言います。

 

あまり、早期教育として英語を施すことはそれほどいいことばかりではないのですね。こういったデメリット部分もあることをよく考えなければいけませんね。大人としては、親心で子どもたちにとってできるだけ「良い教育」や「良い環境」の中で暮らしてほしいものだと思います。しかし、それはあくまで「大人が思ういい環境」であって、「子どもにとってはどうなのかは子どもにしかわからないのです」小西氏はこのことに対して「教育に哲学が無くなったと言われる時代になった」と言っています。

 

「教育とは何のためにあるのか」こういった考えを今改めて考えることが必要なのだろうと思います。「学ぶことは何のためなのか」を見つめなおす必要があるのだろうと思います。それは成績を上げるためなのか。それはいい会社に入るだけなのか。いい会社に入った後が大事です。いい成績を活かすことが重要なのです。「教育を哲学する」することは本来の教育の形を改めて考えることになります。早期教育も本来の意味としてそれはどうあるべきなのかをしっかりと捉えていく必要があります。