テレビは悪なのか?

小西氏は小児科学会の赤ちゃんのテレビ・ビデオ視聴の提言について、問題点があると言っています。その問題点の1つ目に、日本小児科学会の優位語の発現率の調査における対象についてです。日本小児科学会の調査では1歳5カ月~1歳7カ月を対象にしています。そして、提言の解説には「1歳6か月頃から大人の言葉を模倣するようになって語彙が急激に増加し、2歳になるころから2語文を話すようになり、言語生活が確立していく」とあります。そうであるならば、調査には2語文を話す2歳半もしくは3歳以降の子どもも対象に入れるべきで、有意語の発語が微妙な時期の1歳5カ月~1歳7カ月を調査しても、テレビやビデオ視聴によって子どもが言語獲得の過程にどのような影響を与えているかを正確に把握するのは難しいのです。また、ある新聞には「通常、1歳から1歳半の子どもは『主語』『述語』の2語文で話すことから、2語文で話せない子どもの割合を4つのグループで比べた」という記述があったそうです。しかし、小西氏は個人差はあるものの、1歳半未満で2語文を話す子どもは稀で、2歳過ぎてようやく有意語を話す子どももたくさんいると言っています。

 

言語獲得というものの対象をどこに置くかで考えることが重要なのですね。これは英語教育の考え方とも似ていますね。子どもが単語を言うことに感動する親がいますが、それは決して「英会話ができている」ことではないのです。言語獲得の過程にどのように影響が出ているのかを考えるとその後の有意語がはっきりとしてくる時期の子どもたちも対象に入れていかなければいけません。それに確かに保育の中ででも、発語に関しては、わりと個人差があります。早い子もいれば、ゆっくりと発達する子どももいます。

 

小西氏も大切な面は「発語は早ければよいというものではない」と言っています。そして、昔の人は「おばあちゃん子は言葉が遅い」「一人っ子は言葉が遅い」と言い、発語の速さで良し悪しを決めたりはしなかったのです。結局、発語においても、「いつできるようになるか」ばかりが取り上げられてしまうと不安ばかりが先行してしまいます。このことは保護者とのやり取りにおいても、もう少しよく考えて話していかなければいけません。

 

そして、2つ目の問題点です。それは日本小児科医会の提言が、1999年のアメリカで出された小児科医らの警告に基づいたもので、十分な検証が行われていないことです。前回紹介した毎日新聞の赤ちゃんが目をそらすという行動ですが、これは「サッカード」と呼ばれる生後3か月以降の赤ちゃんの状態であって、必ずしもテレビの影響とは言えないのです。

 

ここで赤ちゃんの行動の整理を小西氏はしています。まず生後1ヶ月頃の赤ちゃんは物の全体を見ます。そして、ものを見てもすぐに目をそらす傾向があるのです。生後2か月になるとものに焦点を合わせると、しばらく目をそらさずにじっと見つめます。3か月以上になると視線を急に動かす目の運動ができるようになり、物と物とを見比べることができるようになります。つまり、「4か月児が目をそらす」というのは、視覚とそれに関係する脳機能が正常に発達することを意味しているのです。

 

赤ちゃんの発達から見るとこの見解を知っているかそうではないかで、今回の提言の見方は大きく変わってきます。発語についても、個人差があることが見えてきましたし、視線においても、視覚と脳機能の発達によって変わってくることが見えてきました。では、テレビ視聴は子どもにとって言語発達に影響はないのでしょうか。小西氏はそんなことはないと言っています。やはり、言語に関してテレビは影響があるのは間違いないようです。しかし、そこには母親の育児とテレビとのバランスを考える必要があると小西氏は言っています。