アクセル

青年期において、実行機能に関わる脳領域が一時的にアンバランスな状態になるということが森口氏の本の中で紹介されていました。それは脳領域の発達に大きな変化が起きることが言えるようです。特にアクセルに関わる報酬系回路の発達により、ブレーキが利かない時期に青年期は入っていくようです。

 

では、ブレーキとなる脳領域はどういった発達を起こすのでしょうか。森口氏はブレーキとしての役割をつかさどる前頭前野は「成人期まで発達が続く領域です。大事なこととして、前頭前野は、児童期よりも青年期のほうが、青年期よりも成人期のほうが、ブレーキとしての役割が強くなる」ということを言っています。このことを見ていると児童期に比べ、青年期のほうがブレーキの性能はよくなっているはずです。しかし、なぜ青年期の中学生などはアクセルを制御することができないのでしょうか。それは簡単なことです。報酬系回路と前頭前野の発達が別々に発達することがその要因と言えるのです。

 

森口氏によると乳児期は報酬系回路がぶっちぎりに発達します。そのため前頭前野の発達が追いつかくことができず、目の前にあるマシュマロに手が出てしまうのです。そこから幼児期から児童期にかけて報酬系回路に前頭前野が追いついていきます。そのため、ブレーキとしての役割の前頭前野が機能していくので、報酬系回路と前頭前野がバランスよくなり、安定してくるのです。青年期になると、成長期とともに急に報酬系回路が発達していきます。前頭前野の発達がまたしても追いつかなくなってしまい、バランスが崩れてくるのです。その後、成人期になることで、前頭前野の発達が追いついてくることにより、両者のバランスが良くなってくるのです。脳領域の発達するタイミングがズレることにより、アクセルとブレーキのバランスは成長のタイミングに差が出てくるのです。

 

このアクセルとブレーキの関係で森口氏が面白いことを言っています。「こういったことを見ているとアクセルが強いことはネガティブな印象を与えてしまうかもしれません。しかし、アクセルが強いことの利点として、学習能力の高さがあげられる」と言っています。このことに関して、クローネ博士らの研究が紹介されていました。小学生、青年、大人を参加者として、ゲームをしてもらいます。しかし、最初の間、ゲームのルールは教えてもらえません。ゲームを進めていくなかで、ヒントが出され、そのヒントに基づいてルールを見つけ、学んでいかなければいけないのです。その間の参加者の脳活動をデータとして取得していきます。すると、青年期の報酬系回路が最も強く示されました。

 

ゲームのルールをヒントを基に見つけていくことに、報酬系回路が反応したのですね。つまり、ルールを見つけていくことが一つの報酬として捉え、それが意欲となっていったのでしょう。このことをみても、アクセルが強く働く青年期は、新しいことを学んだり、新しいものを探したりすることに向いている時期と言えるのでしょう。

 

この段階を見ているともう一つのアクセルが強い時期、つまり、乳児期も学びが強い時期ともいえるのかもしれませんね。実際、乳児期においては、非常に周りを見ていたり、能動的に「やってみよう」という様子が多いように思います。結果として、それは大人にとっては迷惑であったりする行動になることが多いのですが、こういった脳のメカニズムは間違いなくその頃に必要なことをしているように思います。「アクセル」という発達での様子は必要な時期としてあるのですね。その頃に多くのことを経験させるということが人生において必要な時期であるのが分かります。