中央実行系回路

思考の実行機能においては外側前頭前野の発達が非常に重要であるということが分かってきました。しかし、思考の実行機能は前頭前野だけが関係しているとは限りません。思考の実行機能が機能しているときに、脳の前頭前野だけではなく、他の部分も活動していることが見えてきました。それが「頭頂葉」です。思考の実行機能が使われているときには外側前頭前野と頭頂葉が機能しており、この二つで構成されている脳の部分を中央実行系回路と森口氏は言っています。

 

では、この中央実行系回路はどのように関係しているのでしょうか。森口氏はそのことを知る前にそもそもこの中央実行系回路のような複数の脳領域を含むネットワークがどのように発達するかを理解する必要があると言っています。そもそも脳の領域は子どもの間は複数の脳領域がつながるようなネットワークは出来上がっていません。そのため、近い脳領域同士でネットワークを作っています。そして、その後、青年期から成人期にかけて、前頭前野と頭頂葉のような、比較的距離のある脳領域同士のネットワークが形成されていくのです。

 

このような脳領域のネットワークのつながりは思考の実行機能の脳内機構においても当てはまります。このことを示しているのが西オンタリオ大学のモートン博士らが切り替えテストを行っている際の脳活動の研究です。モートン博士らが調べたところ、小学校高学年の子どもは外側前頭前野と頭頂葉を活動させていたことが分かったのです。つまり、乳児期から幼児期は外側前頭前野が働いていたことに加え、児童期から青年期には頭頂葉も含む中央実行系回路が思考の実行機能を支えることにつながっているということなのです。こういった中央実行系回路が機能することにより、児童期以降では、幼児期よりも効率よくルールの切り替えができるようになるのです。

 

また、青年期以降も中央実行系回路は発達が続き、成人期になってようやく完成します。このように中央実行系回路はゆっくり発達し、発達には長い時間を有するのです。これが、思考の実行機能が成人期までかかって発達するということを意味している部分です。思考の実行機能がよりよく効率的に働くためには脳の発達が大きく関わっているのですね。

 

このことを考えていくと、子どもたちに大人と同じような見通しを持たせることは難しいのかもしれません。特に乳幼児教育において、複雑なルールを子どもたちに課すことは困難だということが分かります。また、ルールのある遊びが年少児に難しく、年長児だからこそできるということも分かります。脳の発達によって子どもたちの判断力には大きな差があり、一概に全員を同じように見ることの危険さを改めて感じます。特にこういった発達には差がありますし、乳幼児においてはより大きな差が出ていることを考えると、その子一人一人にあった環境を作ることの重要さは保育をする上でより考えていかなければいけないのだということが分かります。