研究の穴

幼児期の実行機能を測り、幼児期のテストが将来を予測するというマシュマロテストですが、最近になって、この結果が疑問視されているようです。というのは、心理学の過去の有名な研究結果によっても、実はあまり信頼できないといわれることがしばしばあるからです。

 

科学的研究の前提として、同じ方法を使えば、同じ結果が得られなければならないというところがあります。しかし、心理学においては、同じ方法を使っても、同じ結果が得られないことがあります。一つの例として、森口氏は新生児模倣を挙げています。生まれたばかりの赤ちゃんが、大人の表情を真似る。たとえば、大人が口から舌を出せば、赤ちゃんも舌をだすという保育の世界では有名な研究で、養成学校でもならうものです。この40年ほど前の研究報告ですが。最近の大規模研究によると、生まれたばかりの赤ちゃんに同じような実験をやっても、赤ちゃんはほとんど新生児模倣をしないことが報告されました。新生児模倣らしいことをすることはあっても、統計的には偶然の範囲内だったというのです。こういうことを聞くと、研究者が結果を捏造したように思いますが、実際のところは、技術的な問題や、他の重要な要因を考慮していなかった場合などがほとんどです。

 

マシュマロテストについていうと、ニューヨーク大学のワット博士らが、ミシェル博士らのテスト同様、同じ年齢の子どもを対象にマシュマロテストを実施し、その子どもたちの青年期まで追跡して、ミシェル博士らと同じ結果が出るかを調べました。この研究では、さまざまな要因を考慮したのです。それは、青年期の学力や問題行動は、マシュマロテストの成績以外にも、家庭の経済状態(裕福か貧困か)や子どもの時の知的レベルなど、さまざまな要因に影響を受けるということを考慮に加えても、マシュマロテストが影響力を持つかをしらべたのです。その結果、価値の経済状態や子どものときの認知機能などを考慮すると、幼児期のマシュマロテストが青年期の学力や問題行動に与える影響は極めて小さいということが示されたのです。

 

様々な研究は時代によって、新しい知見や要因によって大きく変わってくることはこれまでにも多々ありました。特に、人の心理というのは環境や成育歴によっても要因が出てくるでしょうから、一筋縄ではいかず、非常に多岐に渡る要因を洗い出さなければいけません。今回の森口氏の話は一概に今の研究を鵜呑みにし、研究結果を子どもに当てはめるのではなく、あくまで子どもに目を向けることが重要であるということのサインを送られているようにも思います。

 

森口氏はマシュマロテスト自体は重要ではないとはしていながらも、実行機能は子どもの将来を予測することはしっかりとできると言っています。