青年期の実行機能

青年期の感情の実行機能はギャンブルテストで調べられます。子どものテストの場合は前回紹介したようにシールを活用していましたが、若者を対象にしたテストでは、お金が使われます。なぜなら、子どもにおいてもお金は価値のあるものなのですが、青年期になるとそのお金の重要性は格段に増してきます。洋服や食事代、アクセサリーや化粧品など、欲しいものばかりとなり、どうしてもお金が必要になるからです。

 

ロンドンの大学のブレークモア博士らの研究では、9~11歳の子ども、12~15歳の中学生、15~18歳の高校生、25歳以上の成人を対象に、お金を使ったギャンブルテストで、どの年齢層がハイリスクハイリターンの選択をする傾向にあるかを調べました。このテストでは、参加者はお金をたくさんもらえるかもしれないが、たくさん失うかもしれない選択肢(ハイリスクハイリターン)と、お金を少ししかもらえないが失うリスクが低い選択肢、(ローリスクローリターン)を与えられ、どちらを選びやすいかが調べられました。

 

この思考の実行機能の研究結果をみてみると脳がまだ発達の過程にある9~11歳が予想されると思いきや、ハイリスクハイリターンの選択をしたのは子どもよりも、成人よりも中学生や高校生のほうが多く、中でも中学生がもっともハイリスクハイリターンな選択を市がちだったのです。どうやら青年は、子供よりも、目の前のお金があるとお金に対する欲求を止めることができず、ハイリスクハイリターンの選択をしてしまうようだと森口氏は言っています。

 

ここであることが見えてきます。幼児期から児童期にかけて同じようなタイミングで思考の実行機能と感情の実行機能が発達しますが、青年期においては違った発達過程を示しているということです。このことを確かめるために、ウェイル・コーネル医科大学のケーシー博士らは、両者の発達過程を直接比較し、違いがあるかを調べました。この研究では、ほとんど同じようなテストで感情・思考の実行機能を比較するために、簡単なテストを行います。

 

どちらのテストも真顔の写真と笑顔の写真を使いました。一つ目のテストでは、モニター上に笑顔の写真が出たらボタンを押し、真顔の写真が出たらボタンを押してはいけません。笑顔の写真の枚数が多いので、真顔の写真のときにもついついボタンを「押してしまいそう」になります。その行動を制御する必要があるのです。こちらは思考の実行機能です。もう一つのテストはこのテストとは逆に、真顔の写真が出たときにはボタンを押し、笑顔の写真が出たときにはボタンを押しません。

 

一見、二つとも同じようなテストに思えますが、森口氏は笑顔を見ると人はつい嬉しい気持ちになり、ボタンを押したくなってしまうことが知られており、「押したくなる」ボタンを押さないという意味で、こちらは感情の実行機能のテストになると言っています。

 

このテストを小学生、中高生、大人にやってもらったところ、思考の実行機能のテストは年齢が上がるとともに成績が良くなったことに対して、感情の実行機能のテストでは中高生が最も成績が悪いという結果がでました。2つの実行機能の発達は異なっており、思考の実行機能は右肩上がりであるのに対して、感情の実行機能は青年期に一時的に悪くなってしまうことが確認されたのです。

 

なぜ、青年期には衝動的な行動を抑制することができないのでしょうか。