青年期の変化

青年期は衝動的な行動を制御することができないことが笑顔と真顔の写真を見分けるテストで見えてきました。先日このテストのことを紹介しましたが、思考の実行機能は右肩あがりに発達していくことに対して、感情の実行機能は青年期に一時的に悪くなってしまうのです。つまり、青年期においては、アクセルが強すぎて、ブレーキによって制御できていないのです。しかし、児童期や成人期ではハイリスクハイリターンの選択をすることはありません。つまり、アクセルに対して、ブレーキが機能していることを示しています。なぜ、青年期はブレーキがアクセルを制御できないのでしょうか。

 

森口氏は児童期と青年期を比べた場合、「青年期に起こる変化は非常に急激なもの」と言っています。そして、これは成長期ともいえる時期のため、アンドロゲンやエストロゲンのような性ホルモンの濃度が高まるという生物学的な変化によって起きると森口氏は言っています。児童期においてもこれらの性ホルモンは体内に存在していますが、その濃度は高くはありません。児童期後期から体内では着々と準備が進んでおり、急激に性ホルモンの濃度が高まってきます。

 

脳領域の視床下部から脳下垂体に指令が出て、性ホルモンが分泌されます。分泌された性ホルモンは体の様々な部位に送られますが、脳にも送られます。特に脳内の大脳辺縁系は感情に関わる脳領域に作用することが言われています。男性ホルモンは、扁桃体という脳領域に多く作用します。この脳領域は見聞きしたものが、安全であるか危険であるかを判断するときに関わります。たとえば、道にあらわれたのが子犬であれば、安全だと判断し、子犬に接近したりします。しかし、もし現れたのがイノシシであれば、危険だと察知し、身を守ろうとします。こういった判断にかかわる脳領域が青年期に大きく発達します。

 

一方で、女性ホルモンは記憶の中枢である海馬などの領域に作用します。たとえば、お店はどこにあるのか、自分の恋人が過去に自分に対してどういうことをしたのかです。いずれにしても、こういったように青年期にかけては、感情や記憶にかかわる脳の領域が変化していきます。これは実行機能に関しても例外ではありません。それは青年期において最も劇的な変化を遂げるのが、アクセルに関わる報酬系回路です。特に身体的な成獣が進んでいる青年ほど、報酬系の一部である腹側線条体などの領域が変化を遂げやすいのです。このことが時分をコントロールすることを難しくすると森口氏は言っています。

 

ライデン大学のクローネ博士らは、ギャンブルのようなテストにおいて、10歳から25歳の参加者を対象に、fMRIを用いて脳活動を調べました。そして、ハイリスクハイリターンとローリスクローリターンの選択肢において、ハイリスクハイリターンを選択したことによって、報酬が貰えた場合とそうではなかった場合の脳活動を比較したのです。

 

その結果、アクセルに関わる報酬系回路の活動の変化が見られました。10歳くらいの児童とくらべて、13~15歳程度の青年のほうが、報酬系回路の一部である腹側線条体の活動が強いことが示されたのです。つまり、小学生より中学生のほうがお金に執着したということが分かります。これは成人と青年と比べた場合も青年期、つまり中学生のほうが強く出たことが分かりました。これは中学生ごろにおいて、ブレーキとアクセルのバランスが悪いことが見えてくると森口氏は言っています。