身体的不器用さ
宮口氏は非行少年の中には極端に身体能力の使い方がおかしい少年がいたのを目にします。例えば、体育の時間でサッカーでゴールにボールをけるところを相手の足を蹴り、一試合で何人も捻挫したり、お客さんに料理を出すときに、勢いよくおいてしまいお客さんとトラブルになったり、中にはじゃれあっただけなのに相手に大怪我をさせたと言われ傷害罪で逮捕されたなどといった非行に関するものまでありました。こういった子どもたちは少年院を出て、まじめに働こうとしても、身体的不器用さ故にクビになり、職を転々としたり、本人にそのつもりはなくても傷害罪でつかまったりするケースが見られるのです。
しかも、宮口氏が関わっている少年たちはたいてい認知機能の弱さも伴っていました。認知機能の弱さがあるとサービス業につくよりも建設現場で、土木作業員といった肉体労働に就く傾向にあります。しかし、身体の使い方が不器用であるとそういった肉体労働でも問題を起こして仕事が続かず、生活ができなくなるのです。安定した就労は再非行防止に欠かせない要素ですが、身体的な不器用さが就労のハードルになり、再非行のリスクを高めることにもなると言っています。
この身体的に不器用さというのは、発達性協調運動症といった疾患概念があります。協調運動とは別々の動作を一つにまとめる動作です。皿洗いで例えると、皿が落ちないように一方の手で皿をつかみ、もう一方の手でスポンジを握って皿を擦るという2本の手が別々の動作を同時に行う高度な協力が必要です。これが協調運動なのですが、身体的不器用さはこの協調運動に障害があるため、粗大な協調運動(身体の大きな動き)や微細な協調運動(指先の動作)に困難をきたすのです。5~11歳の子どもで約6%いるとされているそうです。
この身体的不器用さは協調運動が必要とされる日常生活上の身体活動の獲得や遂行に困難さを生じます。ボタンを留めたり、靴ひもを結んだりですね。ほかにも字を書くことや、楽器を演奏するといった創作的活動にも必要な動きがあります。身体的不器用さは身辺自立や創作活動にまで支障をきたすこともあるのです。また、こういった身体的不器用さは成長により無くなると言われていましたが、青年期にも持続することが数多くあります。また、こういったことは目立つので、それがもとでいじめにあったり、自信を失うことも多いのです。
このような少年たちの特徴は「力加減ができない」「物をよく壊す」「左右が分からない」「姿勢が悪い」『じっと座ってられない』というものが特徴的だと言います。これらのことは自分の体のイメージや相手の体のイメージが分からないことにあると宮口氏は言います。また、「姿勢がわるい」ということに関しては筋肉の調整機能に問題がある場合があると言っています。筋肉の緊張が弱いと関節が柔らかく、まっすぐ立ってもお腹が出るように姿勢になり、逆に筋肉の緊張が強いと柔軟性にかけ、ロボットのようにぎこちない動きになるのです。結果、姿勢が悪くなることでずっと座っていられなくなり、それによって指先の細かい作業ができず、指先が不器用にもなるのです。
このことは最近の子どもたちにも言えることです。最近の子どもたちも立っていられない子どもたちが多くなってきています。すぐ地べたに座り込んでしまうのです。これは子どもたちの遊び場問題があるのかもしれません。最近子どもたちが外で体を使って走り回ったりしている姿を本当に見なくなりました。地域で遊ぶ場や公園でもボール遊びができなくなったり、さまざまな制約があります。またテレビゲームなどの普及によってますます外に出なくなっているようにも思います。子どもたちの身体的な能力は一昔前よりも大きく下降傾向であると思います。宮口氏はこういった身体的不器用さは、じっと座っていられなければ学習にも、力加減ができなければ対人関係にも影響します。そのため、学習面や社会面に加えて、身体面への支援も欠かせないことがわかると言っています。