貧困と教育の課題

様々な研究者の研究によって、教員の質にばらつきがあることが生徒たちの成績の差に及ぼす影響がせいぜい10%以下だろうと結論付けています。それはどういったことなのでしょうか。これは教育の議論と貧困の議論を一つにまとめることのマイナス面であるとタフ氏は言います。なぜなら「どうやって教員の質を改善するか?」が唯一の重要な問題であると考えたくなるからです。しかしそれははるかに大きくて深い問題(大勢の貧しい子どもたちがチャンスを得らえられ、現状を劇的に改善するために国家規模で何ができるのか)のほんの小さな一部に過ぎないからなのです。

 

貧困をめぐる議論が教育改革の議論へと融合して消えた課程で、もう一つ重要な事実を見失っているというのです。大きな成果をあげているチャーター・スクールを含め、最も復旧している学校改革の多くが、低所得者層の中でも上層の子どもたちの間でうまく機能し、最下層の子どもたちの場合には機能しないことがたびたびあるという点です。本当に貧困な家庭で育っている子どもたちがアメリカには700万人以上いるわけだが、そういった家庭の子どもたちは考えなくてすむような学業への障害に数えきれないほど直面することになります。

 

まず、そもそも経済上に問題があります。おそらくまともな場所に住めないだろうし、栄養のある食事もとれません。新しい服や本や教育効果のあるおもちゃが買えないことは言うまでもありません。しかし実際、直面する学習への障害の最たるものは、家族が何を買えるか買えないかといった問題を超えた深刻なものである可能性は高くあります。家族にそれだけしか収入がないとなると、家庭内にフルタイムで働いている大人がいないのはほぼ確実になります。それは単に仕事がないだけかもしれない。親、あるいは両親に障害があったり、うつ病だったり、何かの依存症だったりといった雇用の妨げになる原因があるかもしれません。アメリカにおいて、こういった家庭の保護者はあまり教育を受けておらず、一度も結婚したことのないシングルマザーである確率が高くあります。そして、統計的に見て、あなたの保護者は虐待、あるいは育児放棄の疑いがあるとして児童福祉局に報告されたことのある可能性も高くあります。

 

神経科学者や心理学者の研究からわかっているところによれば、こうした家庭に育っている生徒はACE(子ども時代の逆境)の数値が高く、保護者との安定した愛着(ストレスや心的外傷の緩衝材となるもの)を築いている可能性が低い。これによって実行機能の能力も平均より低くなる傾向が強く、ストレスの多い状況に対処するのに困難を覚えるケースが多い。教室では集中力が低く、対人スキルに欠け、じっと座っていられなかったり指示に従うことができなかったりするそうです。結果、教師の目には問題行動と映るのです。

 

こういった環境下におかれた子どもたちは助けを必要としているにも関わらず、アメリカンの学校改革で作り出された方策はきっちりと機能しているとはいえず、低所得層のなかでも比較的余裕のある、年収4万1千ドル前後の家庭の子どもに有効であっても、それより深刻な状況にある子どもたちにはまだ、有用性は至っていないのです。結果的に、その場しのぎのプログラムや政府の期間になり、子ども時代の一部、思春期の一部を断片的に支援することにしかならなかったのです。