慣れない状況

エインズワースは1960年代から1970年代にかけての研究で、幼少期の愛情をこめた育児は行動主義者たちが思っているのと正反対の効果をうむことを示しました。それは生後1か月ほどの間に親から泣いたときにしっかりとした対応を受けた乳児は、1歳になるころには、泣いても無視された子どもよりも自立心が強く積極的になった。就学前の時期には同様の傾向がつづいた。つまり、幼児期に感情面での要求に対して親が敏感に応えた子どもは自立心旺盛に育ったのです。エインズワースとボウルヴィの主張によれば、親からの温かく敏感なケアは子どもが外の世界に出て行けるための「安心基地」となるのである。まるで、この様子はラットの毛づくろいやなめるといった行為と同じような様子が見えてきます。

 

1960年代の心理学者たちは様々な検査をおこなって乳幼児の学習能力を評価してきたが、情緒的能力を測る確実な方法はなかったのです。エインズワースはまさにそれを測定しようとして「慣れない状況」(ストレンジ・シチュエーション)と呼ばれる方法を開発しました。それはどういった手法かというと、エインズワースが教えていたメリーランド州ボルチモアのジョンズ・ポプキンス大学に、母親が生後12カ月の子どもを連れてきます。ラボを遊び部屋に仕立てて、しばらくの間母子でともに遊んだ後、母親は部屋からいなくなります。しばらくして母親が戻ってきます。エインズワースと研究者たちはマジックミラーを通してその一部始終を観察し、子どもたちの反応をアタッチメントのパターンごとに分類しました。

 

ほとんどの子どもは戻ってきた母親を喜んで迎え、時には泣きながら、時には嬉しそうに駆け寄ったり抱き着いたりしていました。そして、こういった様子を見せる子どもたちを「安定群」としました。その後数十年続いた実験で、アメリカの子どもたちのおよそ60%がこの範疇に入ると分かったのです。それとは逆に温かい再会にならなかった子どもたち、母親が戻ってきても気づかないふりをしたり、母親をたたいたり、床にうずくまって動かなかったりした場合には「不安定群」と分類しました。そして、幼少期の愛着関係が与える精神的な効果は一生続くとエインズワースは言っています。

 

いまでこそ、当たり前のように保育の中で言われる「安心基地」という言葉はこういった研究の中で生まれてきたのですね。このことを見ていると幼稚園や保育園のお迎えの様子からも「安定群」や「不安定群」というものが見えてくるのかもしれません。こういった実験の様子を踏まえて保育や子どもたちの様子を確認していくというもの大切なことなのかもしれません。