長期的な調査

ヘックマンはGEDテストの合格者と高校の卒業生が高等教育に行ったときに、成績において差は見られなかったにもかかわらず、その後の人生で大きく違うこと(年収や失業率、離婚、違法ドラッグの使用率)が分かってきました。ヘックマンはこの結果を受けて、ではこういったいわゆる「非認知的スキル」は伸ばすことができるのでしょうか。

 

それはGEDプログラムを研究するだけでは分かりませんでした。答えを求めて調査を進めていくうちに、ヘックマンはミシガン州イプシランティにたどり着きました。イプシランティはデトロイトの西にある古い工場町で、「貧困との戦い」(ジョンソン政権の貧困撲滅対策。さまざまな社会福祉制度がつくられた)の初期にあたる1960年代のなかばに児童心理学者と教育学者のグループがある実験を行った場所でした。

 

実験者たちは3歳~4歳の子どもを「ペリー・プレスクール」に入れても構わないという低所得者かつ比較的IQの低い親を街の黒人地区で募集しました。集められた子どもたちは無作為に実験グループと対照群に分けられます。実験グループの子どもたちはペリーに入学して質の高い2年間の就学前プログラムに参加し、対照群の子どもたちには自力で勉強してもらいました。その後、子どもたちは追跡調査を受けます。それは1年や2年のことではなく、何十年もの間である。一生にわたり追跡をつづける研究が今も進行しています。対象者は現在40代。ペリー・プレスクールの評価は対象者が成人になるまできちんと続いてきたことになる。かなり長い間の追跡調査ですね。

 

このペリー・プリスクール・プロジェクトは社会学者の間では有名です。しかし、これは子どもの教育に関する幼少期の支援策の実験としては失敗とみなされています。というのも、研究対象の子どもたちはプレスクールに通っていたあいだとその後1年か2年は目に見えてテストの結果が良かった。しかし、その効果はつづかず、3年生になったころには実験グループの子どもたちのIQテストのスコアは対照群のスコアとほとんど変わらなくなっていたのです。幼少期に学力を上げるための支援策を行ったとしても、結局は3年生の時点でほとんど変わらなくなってしまうのが見えるとその時点での支援策は意味がないということが見えてきます。

 

このようにペリー・プレスクール・プロジェクトはかなり長期的な子どもの追跡調査をおこなっているのですが、かなり根気のいる内容です。しかし、この長期的な調査によって、いくつかのことが見えてきました。一見、知能指数に及ぼす影響がないように見え失敗かとみられていたこのプロジェクトですが、ヘックマンら研究者はこの長期的な効果に注目し見ていくなかで、これらのデータが有望であるように見えたというのです。それはどういったところにあるのでしょうか。