思春期とストレス

 

社会に出たときに必要とされるワーキングメモリ、つまり実行機能が将来社会に出たときに、認知的スキルよりも柔軟であり、より役に立つということが分かってきました。そして、この実行機能は貧困層と富裕層との差に見られること、その中心となるのがアロスタティック負荷によるものが大きいというのです。そのため、アロスタティック負荷(幼少期に逆境の中で育ったか)において、それが少なかったらワーキングメモリのゲーム「サイモン」のスコアは場合に裕福な家庭の子どもと同程度のスコアを出す可能性はあるというのです。このように幼少期の環境を改善することは子どもの将来に劇的な影響を与えるというのです。

 

これらのことから見えるようにタフ氏は「私たちの脳と体がストレスや心的外傷に最も敏感なのは幼児期である」と言っています。しかし、「ストレスによるダメージが長期にわたる深刻な問題に直結するのは思春期である」とも言っています。それはなぜかというと、それは単に成長したせいだとタフ氏は言います。小学校のときは衝動を抑えられなかったとしても、その結果はたかが知れています。先生に怒られるか、友だちと喧嘩をするくらいでしょう。しかし、思春期に羽目を外すとその結果は一生ついて回りかねないというのです。たとえば、飲酒運転や無防備なセックス、高校をやめたり、財布を盗んだりと問題行動の規模が幼少期よりも大きくなってきます。

 

また、思春期の脳には独特にバランスに欠けたところがあり、そのせいで良くない衝動の影響がとくに出やすいことが判明しています。テンプル大学の心理学者ローレンス・スタインバーグの分析によると、思春期の頃の生活に強い影響を与える神経系は二つあるのですが、この二つの発達が連動していないところに問題があるというのです。

 

それは一つは刺激処理システムと呼ばれるもので、これによって人はより興奮を求め、感情的に反応し、周囲の情報に敏感になるというものです。そして、もう一方は認知制御システムと呼ばれるもので、あらゆる衝動を規制するというものです。十代が危険な時期であると言われてきたのは、刺激処理システムが思春期の早い段階で最大まで発達するのに対し、認知制御システムのほうは二十代になるまで成熟しきらないためだとスタインバーグは言っています。このため、数年の間は行動を抑えてくれる制御システムが不備なままで狂ったように刺激を処理していくしかないのです。こうした思春期に起きるこういったメカニズムによる衝動的な刺激に加え、酷使されたHPA軸の問題まで抱え込むのは、毒性の高い酒で悪酔いするようなものだとタフ氏は言います。

 

そして、ここではタフ氏は青少年支援プログラム(YAP)という非営利団体によって胃運営されている支援策の内容を紹介しています。ノースウェスタン大学の研究者たちはこのYAPの支援を受ける子どもたちが多くいくシカゴのクック群青少年拘置所の千人を超える若い種間者たちに精神医学の観点から評価を施したそうです。その結果、収監者の84%が子どものころに二つ以上の深刻な心的外傷をおっており、そのうちの大半の者が六つ以上負っていることがわかった。そして、四分の三が、誰かが殺されたり重傷を負わされたりする現場を目撃していたそうです。女子の40%以上が子どもの頃に性的な虐待を受けたことがあった。そして、男性の半数以上が、少なくとも1回は自分や近親者が死ぬか大怪我をすると思えるほど危険な目にあったことがあると答えた。そして、そういった繰り返し受けたトラウマは収監者の心の健康に甚大な影響を与えていたのです。男子の3分の2に精神疾患と診断される症状が一つ以上あり、学業面ではひどく後れを取っていた。標準語彙テストにおける収監者の平均スコアは下位5%で、それは国内の95%の同年代の若者よりも下だったのです。

 

思春期は非常に不安定な時期にあるのは脳内のシステムのせいでもあるのですね。そのうえで、アロスタティック負荷が加わると、もっと大きな問題を起こすことにつながります。その中でYAPのスティーブ・ゲイツは「こうした若者は恐るべきシステムに囚われており、耐え難い事態の中で様々な決断を強いられている」といっています。つまりは、そこには幼少期における環境やその地域での影響というものに子どもたちは影響されているのです。そのため、こういった社会的構造やシステムとは無縁ではいられません。経済学と社会学にも大きな意味があると言っているのです。子どもは環境から大きな影響を受けることが分かります。そして、その時大人はどういった役割があるのかよく考えていかなければいけません。