実行機能

貧困家庭の子どもと中流の子どもの間の成績格差をうめる有望な手段としてとりあげられた「実行機能」ですが、現在分かっているところではこの実行機能とは高次の精神活動の集積であると言われています。ハーバード大学にある児童発達研究センターの所長ジャック・ションコフは、脳全体の機能を見渡して、実行機能を航空管制官のチームに喩えています。つまり、実行機能とは、ごく大まかにいって、混乱していたり予測がつきづらかったりする状況や情報に対処する能力のことを指します。

 

この実行機能の働きを試すテストとして有名なものにストループ・テストがあります。これは緑色の文字で書かれた「赤」という単語を見せられ、単語は何色で見えているかと尋ねます。「赤」と答えないためにはいくらかの努力が必要です。とっさに赤と答えそうになる衝動に抵抗するときに使うのが実行機能なのです。この機能は特に学校で大事なスキルであると言われているそうです。なぜなら、学校で子どもたちは常に矛盾した情報に対処することを求められるからです。Cという文字はKと同じように発音されます。taleとtailは、発音は同じでも意味が違うということが分かります。ほかにも「ゼロ」という概念にはそれ自体に一つの意味があるが、「1」と並べられると全く別の意味を持ちます。こうした多種多様なトリックや例外を飲み込むには、ものごとを認知する際の衝動の抑制がある程度求められます。これは神経学的には感情面の衝動の抑制(お気に入りの玩具の車を他の子にとられたときに、たたくのを我慢する力)と関連のあるスキルです。

 

ストループ・テストの場合においても、オモチャの場合においても、とっさの本能的な反応を抑えるために前頭前皮質がつかわれています。感情の領域で使うにしても、実行機能は学校生活を乗り切るための極めて重要な能力です。そして、この実行機能を必要とすることは幼稚園だろうが、高校生だろうが変わらず必要とする力です。

 

最近、自身の衝動性を抑えられない人の話をよく聞きます。前回の内容においても、そのことに触れましたが、それだけ、今の社会において「実行機能」が育っていない現状があるのかもしれません。そして、このことについてコーネル大学の研究者、ゲイリー・エヴァンズとミシェル・シャンベルクが企画した実験によって貧困と実行機能の関係性が見えてきました。この結果によって、保育の内容や今求められている子どもの環境が見えてくるかもしれません。そして、そこで見えてきた環境は今の日本においても非常に重要な意味を持っているようにも思います。