ストレスと実行機能

エヴァンズとシャンベルクの研究はアロスタティック負荷の数値を新たに研究手法の中に導入したことで、実行機能と貧困の新しい関係性を見つけ出しました。貧困であることは実行機能に影響するのですが、それは貧困であるからではなく、貧困によるストレスによって実行機能に影響が出るというのです。この発見は貧困を理解するうえで大きな違いを生むとこの著者のポール・タフ氏は言います。

 

たとえば、二人の少年が一緒に座って、初めてサイモンで遊んでいたとします。一人は上位中流階級の家庭の子どもで、もう一人は低所得層の子どもです。裕福な家庭の子どものほうがパターンをよく記憶できた。そんな場合、結果を遺伝子のせいにしようとする思い込みがないとはいいきれません。裕福は子どものほうがサイモンに対応できるような遺伝子を持っているのだろうというのです。あるいは、物質的に恵まれている(本もゲームも電動の玩具もある)からだとか、いい学校に行けるから短期記憶に関するスキルも学べるのだといった思い込みや、この三つのすべて原因と考えるような思い込みもあるかもしれないのです。しかし、エヴァンズとシャンベルクの発見によれば、貧困層の少年が受ける不利益としてはアロスタティック負荷が多きことのほうが重要だというのです。

 

もし、別の貧困層の少年がやってきて、その少年のほうがアロスタティック負荷が小さかったら(貧しくともストレスの少ない少年時代を送っているとしたら)サイモンの競争で裕福な家の子どもと同程度のスコアを出す可能性は十分にあるというのです。そして、なぜ、サイモンのスコアが大事なのかといえば、ここから見えるのは高校においても、大学においても、職場においても、ワーキングメモリが成功の鍵となる作業が山ほどあるからなのです。

 

富裕層と貧困層の差に興味を持つ研究者たちが実行機能についてこれだけ騒ぎ立てるのは、この機能の高低が将来を見通すのに非常に役立つからでもあるが、それだけはなく実行機能が他の認知的スキルよりもはるかに柔軟だからという理由もあるのです。前頭前皮質は脳の他の部位よりも外からの刺激に敏感で、思春期や成人早期になっても柔軟性を保っているのです。だからもし環境を改善して実行機能を高めることができれば、その子どもの将来は劇的に改善される可能性があるからなのです。

 

ストレスと実行機能、実行機能とワーキングメモリ、これらの関係を見ていくと幼稚園や保育園、こども園のあり方もよく考えていかなければいけません。アロスタティック負荷の影響を受ける時代である子ども期の子どもたちを預かるこういった機関はこどもたちの将来に大きな影響を与えかねないというのをよく考えなければいけないですね。もちろんそれは園だけに限らず、家庭においても同じことが言えます。また、この実行機能は将来社会に出てからも影響の出るということも意識しておかなければいけません。