大人と施設

麴町中学校の教育改革の本を読み解きながら、今の保育を見ていくとより鮮明に、今求められる教育や保育のあり方を考えさせられます。工藤氏は「学校は社会でよりよく生きていけるようにする」ための施設であるという考えを持っています。それは乳幼児教育においても同じで、教育・保育において本来の目的は社会での生きる力でなければいけません。そして、そのために保護者と教育関係者が連携して子どもたちを見守っていくことが重要です。

 

しかし、現状の保護者と学校との間での連携に問題があるのではないかと工藤氏は言います。それは保護者が「消費者」で学校が「サービス事業者」になっているような状況になっているというのです。そして、保護者の要望を真に受けた結果、子どもたちの自律する機会が奪われているというのです。そして、組織に対する不平不満は「当事者意識」に表裏の関係にあるというのです。当事者意識があれば、何かあったときに文句を言う前に「どうしたらいいのか」を考えますが、当事者意識がないと自分ではない周りのせいにしてしまうというのです。

 

「保護者が消費者で学校がサービス業」というのは何ともはっきりとした見方ではありますが、分かりやすい表現でもありますね。最近では園での様子をすべて知っていたいといったステレオタイプの保護者が増えているように思います。子ども自身のトラブルのすべてを知っていたいといったように先生から事細かに聞き出すことがよくあり、大人の介入を求められることも多く、子ども自身のトラブルを見守るということがなかなか理解されないこともあります。どのように保護者と保育者が連携して、子どもたちにとって自律に向いた関わりができるのかということを考えていく必要がありますね。

 

工藤氏はここで三重県いなべ市の小学校の学校評価を紹介しています。その学校では、学校・保護者・地域住民が話し合いながら学校評価の項目を作り、その結果を「学校評価便り」として関係者に配布するなどしていました。この学校評価において特記すべきところは評価基準が明確で簡素な部分や保護者に対する評価なども盛り込まれていたことです。「学校評価便り」には、「授業参観における保護者の態度に課題があり、改善が必要」といった文言も含まれており、保護者を「第三者」ではなく、「当事者」であるべきだと考える工藤氏は感銘を受けたと言っています。そのうえで、学校をよくしていくためには校長・教員だけではなく、保護者・地域住民も「学校をよくするために、自分たちはなにができるか」という視点をもたなければならず、それぞれの人がこの視点で自己評価ができれば、間違いなく学校は良い方向へ向かっていくと言います。そして、この考えをコミュニティスクールといった地域と学校が力を合わせて学校の運営に取り組むといった保護者や地域との組織における考えに盛り込みたいと考えていました。そのためコミュニティスクールを組み立てるにあたってメンバーは当事者意識をもって、共にリスクと責任を負ってくれる人を選ばなければ、外野から評論家的な意見を言うだけの第三者機関と化してしまいかねないと言います。

 

現在、保護者会を持っている幼稚園や保育園は多いとは思いますが、時代的に共働きも多く参加してもらうにしても、こういった集団を形成できる人材を求めるのは難しいように思います。そのため、当事者意識を持っている保護者をいかに増やしていくかということも同時に考えていかなければいけません。そのため、保育における向き合い方が保護者に伝わっていくことから始まるということを忘れてはいけませんね。