新しい学力観から生きる力へ

「新しい学力観」に変化する大きなきっかけとなったのは、平成元年(1989年)の文部省が示した学習指導要領の改訂において、「学力は何か」について「新しい学力観」を提唱しました。それでは教科書を丸暗記すれば満点が取れる「記憶力中心の知識偏重の教育」と対比すべきものとして、「自ら学ぶ意欲の育成や思考力、判断力などの育成に重点を置く」学力観が提唱されたのです。

 

文部省によるとその背景には、社会の変化に対応できる人間を育てたいという意図があるというのです。情報化、国際化、価値観の多様化、核家族化、高齢化など、現在の社会は大きな変化に直面しており、これにともなって子ども自身の生活や意識も変化して生きている。これらの変化に対応する力を学力として位置付けたいということがあるのです。

 

そして、評価の観点としては、自ら学ぶ意欲、思考力、表現力、判断力などが重視される。そして、各科目の評価にあたっては「関心・意欲・態度」「思考・判断」「知識・理解」といった観点別に学習状況を評価することが目指されるようになったのです。

 

そして、平成八年(1996年)の中教審答申「二十一世紀を展望した我が国の教育の在り方について」で「生きる力」が使われるようになります。この生きる力は変化の激しい社会を担う子どもたちに必要な力であり、それは「いかに社会が変化しようと、自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また、自らを律しつつ、他者と共に協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」や、「たくましく生きるための健康や体力」を備えたものであるとされているのです。そして、この「生きる力」の育成が学校教育の基本におかれるようになったのです。そして、この理念は法的にも明確にされるようになりました。

 

「生きる力」は乳幼児教育でも、出てくるキーワードです。その根底にはやはり社会の変化によることで、教育の変革が求められるようになったからなのです。こう学力観の変遷を見ていると平成元年(1989年)にはもうすでに、こういった社会の変遷を想定された学習の変化の兆しは始まっていたのですね。この「生きる力」の育成が学校教育の基本におかれるようになり、平成一八年(2006年)改正の教育基本法では、あらたに「知・徳・体の育成」や「個人の自律」、「他者や社会との関係」「自然や環境との関係」「日本の伝統や文化を基盤として国際社会を生きる日本人」という観点から教育の目標を新たに定めています。

 

そして、平成一九年(2007年)改正の学校教育法では、「生涯にわたり学習する基盤が培われるよう、基礎的な知識及び技能を習得させるとともに、これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力をはぐくみ、主体的に学習に取り組む態度を養うことに、特に異を用いなければならない」と規定されるようになったのです。

 

こうして、法律的に見直された「学力」概念において①基礎的・基本的な知識・技能 ②知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力 ③学習意欲 の三要素が主要な構成要素となってくるのです。