教育の進まない理由

アンドレアス氏は「教育のイノベーションの水準は、他の経済分野とほぼ一致する」といっています。ただ問題はそのイノベーションは起こせばいいという量の問題ではなく、質や妥当性、アイデアの効果を発揮するスピードが重要になってきます。今の時代でも、イノベーションは起きてはいますが、学習中心に焦点があっておらず、遅々として進んでいないとアンドレアス氏は言っています。では、その欠点はどこにあるのでしょうか。

 

一つは「柔軟性とイノベーションを公平に担保しながら両立すること」それは学校それぞれの自律性や多様性を高め、教育機関の競争を増やすことが挙げられるということです。これはそれぞれの学校に裁量を持たせ、意思決定を現場に持たせることが挙げれられます。これは結果として、各学校の競争意識につながる場合もあり、難しいところです。そのため、この方法が効果があるのかはまだ確証はないそうです。確かに営利目的になり始めると教育の性質とは離れていってしまいます。また、この動きに関しては政府の動きも重要になってきます。アンドレアス氏は学校の自律性、と地方分権、よりニーズに基づいた学校制度の拡大が求められると言っています。そのため、中央政府と地方自治体の協働があって、学校選択がより多くの生徒に恩恵を与えるようになるのです。

 

つぎにガバナンスのイノベーションです。アンドレアス氏は教育において、ホワイトボードやコンピューターなど新しい方法を導入してきましたが、それが他分野でのイノベーションに追いついたかどうかは定かではないと言っています。現にアンドレアス氏は教育が他分野でのイノベーションに追いついていないことを自問してきたというのです。そして、これについて、政府、学会、教科書会社の現在のビジネスモデルを破壊する以外にもっともな答えを見出すことができなかったといっています。

 

しかし、より大きな問題は、たとえ、優れた教育研究や知識が存在しても、多くの教員は彼らが直面する問題が科学と研究によって解決できると信じていない点であるとアンドレアス氏は言います。「あまりに多くの教員が、良い授業はインスピレーションと才能に基づく個人的なアートであり、職業人生を通じて向上していくスキルではないと信じている。」というのです。それは教員だけのせいではなく、教員の知識やノウハウを体系化する報償や奨励、そういった積み重ねた資源などが不足しているため、この問題は政策にさかのぼる必要もあるというのです。というのも、「多くの国では、教育以外の労働時間の余地が少なく、教員は知識創造に取り組むことができない。他の専門職とは異なり、実践者のための専門機関あるいは科学的な共通言語さえも構築することができなかったので、教育実践はあいまいなまま可視化されず、孤立しており、伝承が難しいままである。より良い知識に投資し、広い普及することを優先すべきである。」というのです。