原因の解決と緩和

武神氏はメンタルヘルス不調を起こしそうな不安や悩みを抱えていたり、ストレスをためていそうな部下や知人に相談されたときは「原因の解決は必ずしも必須ではない」と言っています。というのも、それは仕事量や長い拘束時間、仕事の質、対人関係などネガティブなストレス要因があり、それらが実際に解決できるかというと必ずしもできるとは限らないのです。

 

しかし、それを「緩和する」ことはできます。同じ長時間労働でも、小さな成功体験を積み重ねることで、成長実感を得たり、達成感を得るとストレスはグッと少なくなります。そのほかにもチームの連帯感、団結力をポジティブな環境にすることで、同じ状況でもやりがいや楽しさを見出すことができます。メンタルヘルス不調者を出さずに上手に部門をまとめている上司やリーダーシップのある上司というのは、ストレス緩和要因にフォーカスできているからなのです。

 

ではストレス緩和要因とはどういったものなのでしょうか。武神氏はストレス緩和要因とは達成感や裁量権(自分で選べること)を指すと言っています。達成感はボーナスなどの「金銭」のほかにも「ほめ言葉」や「表彰」などでも与えることができます。また、チームワークや団結力があれば、達成感はさらに倍増します。そして、次に裁量権ですが、裁量権を持てる人はストレスの感じ方が減ると言われています。それは仕事上の裁量権をゆだねるということもありますが、有休をとりやすくするとか、早く帰ることのできる日を作るといった、時間的裁量権を与えることもあるのです。自分で行動を選ぶことができるということは人にとって大きなストレス緩和要因になるのです。時間的裁量権は、気持ちの“ゆとり”につながります。事実、遅くまで残る日と早く帰る日をコントロールできる時間的裁量権のある人は比較的ストレスが少ないと武神氏は言います。

 

昨今、「働き改革」として「ノー残業デー」を導入しているところがありますが、これは現実的ではないと武神氏は言います。というのも、仕事は問題が出る可能性があるからです。そんなときに全員帰ることは現実ではありません。全員が変えるのではなく、一人は必ず月に1~2回は早く帰れるようにし、部署の全員が早く帰らせようとフォローしたりできるような環境を作るほうがより現実的です。一斉にノー残業デーにするのではなく、順番に早く帰れるようにするのです。このように時間的裁量を各々に委ねていくのです。

 

また、「会社のことを誇りに思う。」「自分の会社を友人に紹介したい」といったように、会社への思い入れが強い(エンゲージメントが高い)人はレジリエンス(ストレス耐性)も高く、職場でのストレスを感じにくいと言われています。

 

この内容を見れば見るほど、保育との共通点を感じます。部下の内容を子どもに置き換えることができるように思います。保育環境においても、職場環境においても、その雰囲気や環境というものは人に大きな影響を与えるのです。一定の裁量権をいかに「選択」できるようにしておくのか、人間関係がいかにお互いがフォローし合えるような透明性や関係性が保たれているのか。そこにマネジメントする上司やリーダーはこういった雰囲気を作っていかなければいけません。そして、それにはそれぞれが主体性を持つ必要があり、自分たちがその一員であるという当事者意識を持てるようにもしていかなければいけないのです。そのために、「みる・きく・はなす」といった技術を持つ必要があるのですね。