はなす

「みる」「きく」と進めてきました。最後は「はなす技術」です。「はなす」は漢字で書くと、①言葉で相手に伝える「話す」②手放す、握っているものを解き放つという意味の「放す」③距離や空間を分離するという意味の「離す」の三つの意味があります。

 

そして、このうち、「放す」と「離す」は時間空間的距離を話すということで、リーダーや上司にとって、部下との距離感として意識してもらいたい「はなす」だと言っています。そして、これは部下との単なる物理的・空間的距離感だけではなく、接する時間という意味での適切な時間的距離感も含みます。できるリーダーは適切な距離を持って上手に「はなす」ことによって、相手に自主的に動いてもらっているのです。ここで意外だったのが、「はなす」というと「話す」しか出てこなかったのですが、「放す」や「離す」といった意味合いが確かにあることが分かります。そして、読んでいくうちにこの「はなす」ということが意外と自主性や主体性につながるということがよくわかるようになります。このことは保育にも通じる内容で、子どもと保育者との関わりにおいても重要な距離感を示しています。では、それはどういった距離感なのでしょうか。

 

武神氏は「はなして相手に任せることが、相手に主体性を持って動いてもらうことにつながる」と言っています。しかし、ここで注意しなければいけないのは、「任せる」ことと「委ねる」ことを混同してはいけないということです。よく「任せる」というとすべてを任せっきりでそのあとは放置という人がいますが、それは任せたとは言わないのです。ましてや、自分がよくわからない業務があって、それを部下に丸投げしたとすれば、それは「任せた」のではなく、無責任に「委ねた」ということになるのです。しかし、この「任せる」というのと「委ねる」というのは周りから見るとわかりにくいところがあります。そのようなときは上司の部下に対する「会話の言葉=話し言葉」に注意すると分かるときもあります。どういったことかというと、部下にかける言葉で“はなす”ができている上司は部下に「頑張って“いる”ね」と言います。それに対して、できない上司は「頑張ってね」と言います。

 

「頑張る」こと自体を求めるのではなく、「頑張っている」姿勢を見ているということが必要なのでしょうね。これは参考になります。つい、物事を見ているときに「頑張る」ことを求めがちです。そして、もしそれが思っているほどの成果をあげれていない場合はよりそこに近づくように煽るように声を掛けがちですが、もしその人自体が限界まで頑張った状態でそれなのであればとてもつらいことでしょう。こういった双方の思惑の違いによって、片方にプレッシャーがのしかかってしまうことは珍しいことではありません。そのためにも、その人自体の頑張りに目を向けるほうが、モチベーションが上がるのは言うまでもありませんし、次の意欲や主体的な取り組みにつながるだろうことは想像がつきます。ある程度の余裕がマネジメント側にも求められますね。結局は「急がば回れ」ということなのでしょう。