相手に気づかせるには

人に注意をするときや悩んでいるとき、それを自分で気づき改善していく力を養っていくというのはなかなか簡単なことではありません。そして、質問に来たときに、何とか頑張ってもらおうとアドバイスを必死にしてしまいます。しかし、それでは人は育たないのかもしれません。以前、東京大学に子どもを入学させた親に共通の関わりがあり、その親のほとんどが子どもに対して、疑問形で返すという関わりを持っていたそうです。もちろん、そのためには相手の話に耳を傾け、「きく」ということが重要になってきます。まさに前回の「言うを忍ぶ」というところですね。

 

武神氏は前回までに紹介した「姿勢を向ける」「呼吸を合わせる」「順番に聞く」といった行動面、「言うを忍ぶ」「話よりも聞く」「存在を認める」といった意識面、これらのことが意識できると、あえて自分がアドバイスしなくても、ところどころ質問を織り交ぜていくだけで、この章で最初に挙げた「利く」と「効く」ができてくると言います。上手にきくことのできる人は、自分が話す少ない時間のなかでアドバイスはあまりしないのです。その代わり相手のためになる効果的な「質問」をします。自分の知りたいことを聞くことを「疑問」といいますが、相手のためになること(気づかせること)をきくことを「質問」と言います。

 

自分で気づかせるというのは言葉を変えれば、相手の視点を変える、新しい認知を与える、認知を変化させるということです。人は言っても変わらない。というのは以前の「みる技術」でも出ていました。ということは、いくらアドバイスを言っても変わらないのです。ひたすら聞いて、たまっているものを出させることも「きく技術」で、それだけで相手に自己重要感を与えることもできます。

 

思えば不思議なもので、おしゃべりな人よりも、あまり口数は多くなく、時に出てくる言葉が芯をついている人のほうが頼られる存在になっているように思います。自分自身もこれまでは自分の話したいことを話すことが多かったですが、相手の話の意図を聞いてから、アドバイスをいなければいけないと思うようになってからは、不思議と口数はこれまでよりも減ってきたように思います。「気づかせる」ということを考えると主体はアドバイスする側と考えがちですが、本来は主体は問題を抱えている側であります。そして、過度にアドバイスをしてしまうのはかえってその人本人の成長にとっては「お節介」なのかもしれません。本当にそのひとのことを信ずるのであれば、そこは一歩ひいた距離感にいることも重要なのかもしれません。そして、そう思えるだけの普段からのコミュニケーションや意思疎通は心がけていかなければいけないのでしょう。ここでは「自己重要感」という言葉が出てきましたが、それは相手にとっても、相手から見た自分にとっても、それが持てるような関係性を作る必要があり、そういったものが所属する部署の面々がそれぞれにつながっていればそれは理想の関係性であるのだろうと思います。