社会脳の土台

人が社会を作っていく中で必要となってくる能力において、相手の気持ちを予測する「共感」の次に必要な能力を米国の心理学者で科学ジャーナリストのダニエル・ゴールマンは「全面的な受容性を持って傾聴する能力。相手に歩調を合わせる能力」と言っており、この能力を「情動チューニング」と名付けました。そして、この能力の発揮するにあたって役目を果たすのが「ミラーニューロン」なのです。このミラーニューロンは人の脳の中で、他者の感情や、動き、感覚、情動を自分の内部で起こっているかのように感知することができる神経細胞であると言われています。そのため。ミラーニューロンの働きが強い人ほど共感する力が高いと言われています。

 

そのため、他者かから読み取った情報を自分の中で再現することによって、迅速で的確な対応をすることができ、動作の意図を嗅ぎつけただけでニューロンが反応し、そこに働いている動機を嗅ぎつけることでニューロンが反応し、その他者の動機を探り、意図と理由を感知することで、他者から貴重な社会的情報を得ることができるのだそうです。この周囲の状況に対するアンテナの役割を果たす能力があるおかげで、複雑で高度な社会を形成することができると言われているのです。

 

人は「相手の気持ちや意図を予測する能力」と「その相手の気持ちや意図を予測し、それに対して調整する能力」があることで高度な社会を形成することができるということが読み取れます。しかし、「インターネット社会は、時代を変化させるきっかけにはなりますが、持続的社会をつくるにはなかなか至らないということは、社会とは、実態としての人と人とのつながりだからでしょう。それはインターネットだけではなく、テレビなどでの情報についても同じようなことを感じます。」と藤森氏は言います。面白い例として、俳優と実像の話が出ていました。テレビドラマで出ている俳優と実像とではギャップがあるというのです。名優は演技力が素晴らしいのであって、その人自身の性格とは異なることが多いのですが、混同してしまうことがあるというのです。怖いホラーを書いている作家が、実は非常に優しい人であるとか、立派な評論を書いている人が、実生活は乱れているといったことは多くあることです。

 

直接かかわることでしかわからないことがあるのが人の社会であるというのです。現実の社会の中でメディアやプロパガンダに人が騙されてしまったり、扇動されてしまうことがあります。こういった間接的な印象や情報はその人に共感する場合の落とし穴になることがあると藤森氏は言います。もちろん、テレビやインターネットの普及、SNSなどのツールは素晴らしいほど多くの情報を私たちにもたらしてくれます。しかし、その反面、人間本来の社会を作るプロセスを崩してしまっている部分もあるのかもしれません。海外の人が日本に来て驚くのは日本は特に電車に乗っても、レストランに行っても、人と対面しながら目はスマートフォンに向かっている姿だということを聞いたことがあります。ツールを使いこなすためには土台となるコミュニケーション能力は非常に重要な能力だと考えたとき、多様性のある子ども集団や地域社会といったものの重要性は今後もっと考えていかなければいけない最優先事項になるように思います。