新生児社会性

赤ちゃんは生まれてすぐの新生児でも、他の赤ちゃんの存在を意識し、微笑み合おうとします。生まれてすぐに歩くような動作をする原始歩行や新生児模倣という行為のように、それを「新生児社会性」と言ってもいい行為ではないかと藤森氏は言います。そして、それはヒトが社会を形成して生き抜いてきた種であり、遺伝子の中に社会を形成するものをもって生まれるからなのです。

 

しかし、他の行為同様、新生児社会性といったものはすぐにやめてしまいます。それはその後、意識して、心情、意欲をもってその行為を行うための準備をはじめるからです。そして、そのための環境が整っていれば、社会を意図して関係を構築しようとし始めます。ですから、私たちは子どもたちが社会性を獲得することができるような環境を用意しなければならないのです。それには決して、母子だけしか存在していないような家庭ではなく、広い社会での経験が必要になります。同時にその経験は、まだ権威からの影響を受けない、権威に依存しようとしない乳児期から必要だと思います。3歳からではすでに「先生」という権威を感じ始めているような気がするのです。

 

この権威を感じ始めるというのは、たとえば強いストレスを受ける環境下では、脳が後天的に獲得した倫理観や行動規範はすっかり剥げ落ち、無責任に環境や状況が求めるままの振る舞いに陥ってしまう危険性を持っているというのです。いじめから派閥抗争までこういったことは人の集まるところで必ず生じてしまう不幸な事態は、人間の脳の構造的な問題を根源に持っているというのです。そして、そのような状況において、加害者は虐待の意識が生まれにくく、被害者は声を上げにくいというのです。

 

こういった権威における行動抑制は後天的に獲得されていると言われています。そして、そこで獲得される行動規範はその個体が所属する文化的バックグラウンドの影響を強く受けるそうです。そのため、権威に依存しない乳児期から広い社会の中での経験というものが重要になるというのです。

 

乳児期の期間、赤ちゃんはまだまだ「何もできない存在」ということが言われ続けています。しかし、実際の現場の赤ちゃんを見ていても、目を合わせると笑いますし、他児が遊んでいるのを見ている中で、模倣することや試してみる活動を行っています。そこには確かに社会があります。乳児期の権威に依存しない期間のうちに行う社会的な関わりが今の少子高齢化社会ではこういった環境が作れなくなっているのです。子どもの社会性は赤ちゃんから始まっているということを意識していかなければいけませんね。