10月2020

これからの社会

2020年日本では教育改革が行われるというのは2018年にベネッセが出した「2020年教育改革」という資料にあります。そこでは「21世紀の社会を生き抜くために必要な能力は大きく変わる」と言われています。その根拠となるのがオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン助教授の2015年の研究で「あと10~20年で、49%の職業が機械に代替される」というものでした。ほかにもニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビットソンの「2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は今は存在していない職業に就く」という発表です。また、2013年のディスコキャリアサーチの「外国人社員の採用に関する企業調査」では約1/3の企業が外国人留学生を採用し、特に1000人以上の企業では2社に1社とその割合は増加する」と言われています。こういったデータを見ているといかにこれからの時代が、今生きる子どもたちにとって、今以上に変化のある将来かということが分かります。そして、今、当たり前の社会が非常に速いスピードで変化を起こしているということも分かります。

 

それはこのコロナ禍も一つの契機となっていたかもしれません。コロナ禍以前は、テレワークというのは新しい仕事スタイルとして、認知はされていたものの、まさかこれほどまでに社会で当たり前になったとは思わなかったでしょうし、遠隔での会議も今では当たり前のようになってきましたが、コロナ禍が起こったつい半年前では考えられないことだったと思います。コロナウィルスの流行で仕事様式や生活様式の変化に拍車がかかったようにも思います。そういった変化が起きている時代の中では、どういった教育が求められるのでしょうか。

 

現在OECD(経済協力開発機構)で教育・スキル局長でもあるアンドレアス・シュライヒャー氏は著書「教育のワールドクラス」でこう言っています「これからの学校は、生徒が職場でも、市民としても、他者に共感し、自ら考え、他者と交流する手助けをする必要があるだろう。学校は生徒がゆるぎない善悪の判断力をもち、他者から自分に向けられた主張に配慮し、個人と集団行動の限界を理解できるよう支援しなければならない」と言っています。

 

そして、「職場、家庭、地域で、私たちは異なる文化や伝統の下で他者がどのように生活し、どのような考え方をするのかを深く理解する必要がある。機械が人類からいかなる仕事を引き継ぐにしろ、人類が社会的市民的生活において、意義のある貢献をするための知識とスキルはさらに必要性を増すだろう」と言っています。つまり、いくら機械に代替される時代が来たとしても、人が社会を形成することに代わりがないのであって、ではその本質は変わらないと言っているのです。そして、その本質というのが機械によって代替えされることによってより、鮮明に必要とされてくるということを言っているのです。

 

シュライヒー氏は「私たちにはエージェンシー(自ら考え、主体的に行動し、席員を持って社会に参画し、変革していく力)がある。今後デジタル技術において、いかなる影響を受けるかは、これらの破壊に対し、私たちがいかに協同し、体系的に対応するかにかかっている」と言っています。つまり、この「エージェンシー」というのが一つのキーワードになり、これからの時代に重要な要素になっていくということが分かります。

 

未来に向くため 2

4つ目は「食事。睡眠、運動、マインドフルネスを活用する」です。特に重要なのは「睡眠」です。睡眠が不足すると仕事への集中力が奪われやすくなりますし、自制心の失われやすくなります。つまり無礼さへの対処がうまく働くなるのです。次に運動です。運動を行うことで、ネガティブな感情に対してうまく対処できるようになるのです。そして、自分の体験を良いほうに解釈でき、自分を悪い方向に導きそうな良くない思考、感情を即座に捨てることができるのです。運動は、うつ病の治療にも使われるセルトラリン(ゾロフト)という薬よりも、治療効果が高いという結果が得られたのです。ほかにも、健康を保つための食事が良ければ、まともに食べられず、飢えている状況に比べ、ストレス耐性は大きく変わります。マインドフルネスは自分の状況を意識的にゆっくりと見つめることができます。こういった姿勢を保つことで、ストレスのたまりそうな出来事に対して、心穏やかで入れるのです。

 

5つ目は「仕事に意味を見出す」です。自分が成功していると感じていると、たとえ無礼な人ばかりのチームで働いても、高い生産性を維持することができるのです。また、自分のしている仕事に意味があると感じられれば、さらに無礼さへの耐性は強くなるのです。相手の無礼な態度によって感情を乱される以上に、回復する力の方が強くなるのです。

 

6つ目は「社内外で良い人間関係を築く」です。良くない関係は良好な関係よりも4倍から7倍の影響力をもつと言われています。そのため、自分の周囲にエネルギーを配給してくれるような人を何人か置く必要があるのです。その人は自分を笑顔にしてくれる人、気分を上向きにしてくれ人であり、そういった人たちとできるだけ多くの時間を過ごすようにすることで、悪い人間関係にエネルギーを奪われても自分を保てるようにするのです。

 

7つ目は「社外の活動で成功を目指す」です。会社員を対象にクリスティーン氏が行った調査で、仕事の業績と、仕事以外の人生の充実ぶりとの間には強い相関関係があるという結果が得られたそうです。つまり、仕事以外の活動に熱心に取り組むと、自分は新しいことを学んでいる、成長しているという自覚が得られ、その分感情にゆとりが生じるのです。それはたとえ職場で無礼な扱いを受けても、仕事以外の活動が充実している人はそうではない人に比べ、健康を維持しやすいのです。

 

これら前回紹介したものを含め7つの観点で物事を見ていくと、「未来に目を向けることになる」平たく言うと「ポジティブ」な考えになりやすいというのです。考えてみると、自分自身が現在いろんなことがありながらも、ポジティブに入れるのはここで紹介されていることをいくつかできているからなのかもしれません。心当たりはありますし、実際実感としてもあることです。あまり、一つの仕事に固執しすぎると逆に物事はうまくいかないのかもしれません。どこかで息抜きであったり、他に目が向く外の世界があったほうが、無駄なストレスをためずに済むのかもしれません。そして、それ自体がストレス発散にもなり、ストレス耐性にもつながるのでしょう。しかし、現在社会では働く時間が長くなり、その時間が持てないこともしばしばあります。余裕がない時代なのかもしれません。物は豊富で便利になっていますが、だからといって、余裕がなくなっているというのは残念なことです。

未来に向くため

無礼な態度をとる人はどこにでもいますし、人と関わって生きていく以上避けて通れない部分でもあります。問題はそん時にどう乗り越えるか、そして、自分自身もその人の影響を受けず、礼節を保っていれるかということです。最近、自分自身の影響を受けたり、発信してしまっていたりすることに気が付きました。自分がイライラしているとその影響が周りに出てしまい、ギクシャクした環境になっていました。その時自分自身が「無礼な人」になっていただろうと今となっては思います。組織風土というのは長く蓄積されたものですが、リーダーとなる人の印象やあり方でその雰囲気というのは大きく変わってくるというのを感じます。そのためにも、自分自身が冷静であるということと、周りの環境や状況に影響を受けないように心がけることも必要になります。

 

しかし、人はそうはいっても無礼な態度をとる人はいますし、動揺してしまうのはある程度仕方のないことです。問題は先ほども言ったように自分は大丈夫といかに保ち続けれるかです。クリスティーン氏はそういった無礼な態度を取られた場合、「何度も思い返すのをやめる」というのを提案しています。そうはいっても、どうしてもそういった出来事は腹が立ちますし、頭をめぐります。しかし、その時間をなるべくなら少なくしようというのです。そのため、たとえば日記にして、文章化することなども一つの方法です。文章の形であれば、他人に向けることもないですし、無礼な扱いを受けた人が別の人を無礼に扱い、またその人が別の人へという悪循環に陥ることも防げます。ほかの方法では、「自分は過去のために戦うべきなのか、未来のために戦うべきなのか」と問う方法もあるとクリスティーン氏は言っています。つねに未来に向けて問題に向き合うのです。

 

そのためにクリスティーン氏は7つの方法を提案しています。

1つ目は「目標を定め、進歩を実感する」まずは、自分自身が「進歩している」という感覚を持つことが重要です。この感覚があることで、ポジティブになり、やる気を高める効果につながります。

 

2つ目は「自分を成長させてくれるものを見つける」ことで、それは職場だけでなく、組織外の活動に見出すのも大切です。趣味、スポーツに打ち込むことも一つの方法です。そこでの成長や進歩も自分の中で実感として得られることが大切なのです。これは私も実感としてあります。職場外での活動は仕事や無礼な人間とのかかわりなど負の感情を軽減してくれ、自分の置かれた状況をどうすればいいかをじっくりと考えることにも繋がります。なんでもいいので、新たに何かを学び、同じ職場で働く誰かを、自ら進んで手助けるというだけでもいいから、自分を成長や進歩させることができるものを見つけることが良いといいます。

 

3つ目は「メンターの助けを得る」でメンターとは「良き師」ということです。そういった人を見つけることで、無礼な人たちの多い環境でも、精神の安定を図っていい仕事をすることができるのです。これはどこにでもいる「頼れる人」ですね。自分自身が学べる仲間や同僚がいることはそれだけでありがたいものです。

では、残りの4つにはどんなものがあるのでしょうか。

自分は成功している

人との関係は本当にいろいろあります。礼節がある人もいれば、無礼な人もいます。そういった人を人間社会で生きる以上避けて通ることができません。また、そういった人間関係において、ストレスに強く、乗り越える人と、ストレスをもろに受けて疲れてしまう人がいます。こういったネガティブな態度を取られたときに乗り越えるためにどういったことが必要なのでしょうか。クリスティーン氏はそれは「自分は成功していると思えることだ」と言っています。そして、「たとえ何も対策を講じなくても、自分自身がエネルギーに満ち、生き生きと活動していて、しかも、日々成長していれば、またそれを実感していれば、誰かに無礼な態度を取られても、さほど悪影響を受けることはない。」と言っています。

 

そして、そう思えている人、「自分は成功している」と思っている人は健康で、何かあっても回復が早く、また、仕事への集中力が途切れにくいという傾向があるそうです。この「自分は成功している」という感覚は、「自己肯定感」や「自尊感情」が大きく関わってくるでしょうね。成功して言えるという自信がわずかでもあれば、それが自分を守るバッファのようになり、ストレスを感じにくくなり、注意力が散漫になることもあまりないのです。なおかつ、自らを成功しているとみなす社員が燃え尽き症候群になる確率は、平均的な社員に比べて、2割近く少ないという結果が得られています。ほかにも、自分を成功しているとみなしている人は、自分に対する自身も平均的な社員より、52%強く状況を自分の力で変えられるという気持ちもつよいのです。そうあると人に無礼な態度を取られたとしても、考えがネガティブになったり、集中力が削がれたり、自らを疑うようなことはあまりしなくなります。

 

そのコツは悪いことが起きると、それを簡単にいいように捉えなおすことができるから、大きく傷つくことが少ないのです。逆境に直面したときに「個の逆境はあなたにとってどういう意味があると思うのか」というのです。大切なのは「自分の置かれた状況を自分でどう解釈するのか」ということです。たとえ無礼な人がいたとして、その状況から学べることはないかと考えるのです。「つよくなれば、どんな困難も乗り越えられるなどとは言わない。それはあまりに非現実的だ。だが、他人に言われたこと、されたことを気にしすぎないように注意することはできる」とクリスティーン氏は言っています。成功の自覚がある人は、ない人に比べ、他人の無礼な態度への悪影響が34%少ないというデータもあるそうです。

 

しかし、なかなか「成功している」ということを自覚するのは難しいです。特に日本ではその尺度が自分にあるというよりも、人と自分とを比べて、自己を判断する人が多いのではないでしょうか。そうすると実感として「成功している」と感じることはなかなか困難です。ただ、「困難を自分の課題」に思うことはできます。私自身も以前、人間関係で困ったときやいきずまったときに先輩から「それは自分の課題と思ったほうが良い」と言われたのを思い出しました。その逆境をどう捉えるか、「自分は無力」と捉えるのと「ここから学ぶこと」を模索するのとでは大きく違います。そう簡単にポジティブになることは難しいですが、物事を真正面から向き合う向き合い方を知るだけで大きく気持ちが変わったのを覚えています。こういった小さなポジティブシンキングから少しずつ自分の自信をつけていくことも大切なのだろうと思います。大切なのは今がすべてと思わないことなのだろうと思います。

受ける側

では、無礼な扱いをもし、受ける側であったらどうでしょうか。クリスティーン氏は無礼な態度を受けたときにうまく、自分の反応を制御できないと、短時間のうちに、自体が全く手に負えないものになってしまう恐れがあると言っています。そのため、賢い振る舞いが必要になるのです。どういった時でも決して自分を忘れてはいけないのです。なぜなら、感情というものは伝染性が強く、周囲に大きな影響を与えるからです。行事等、保育園でも職員が落ち着かない環境になる時期があります。そんな時に、イライラしている人と一緒にいると、知らず自分自身もイライラしてしまうことがあります。「売り言葉に買い言葉」という言葉があるように、感情は伝染し、気づけば自分が影響を受けていることを忘れてしまうのです。特に、怒りというのは伝播しやすく、増幅されやすいのです。その時には自分の行動に対して「やってしまった」と思うことの内容に気を付けなければいけません。絶対に慎むべきなのは「その場ですぐにやり返すことだ」とクリスティーン氏は言います。そんなことをすれば、相手のレベルまで自分を落とすことになるのです。そして、自分の名誉が傷つくことになってしまうのです。

 

では、無礼な扱いを受けた場合、相手と話し合うべきか否か迷う場合があります。そういった時に次の3つのことを問いかけてほしいといいます。①加害者となった同僚に何か言い返しても、身体的な危険はないか。②その無礼な振る舞いは意図的なものか ③その人が無礼な態度をとったのは初めてか です。すべての問いに明確に答えは出せないことが多いと思います。特に動揺しているときはなおさらです。そういったときには同僚や家族、信頼できる先輩、友人などに訪ねたほうがいい場合もあるのです。そして、この3つの問いへの答えが「イエス」だったら、相手をする。相手の言動であなたがどういった気持ちになったかを告げるのです。

 

その際、相手のところへ乗り込んで話をする場合には事前に準備が必要です。「話し合うタイミング」「安全な場所」「双方が気分よくいられる場所」「証人または仲介者としての第三者」。自分の言っていることが正しいかをリハーサルしておくことも良い。大切なことは話に行くときには「どうすれば最もお互いにとって利益になるか」を最優先に考えるようにする。話をするときには中心となる問題だけ話し、互いの人格については決して触れない。触れるのはあくまで相手の行動である。話をする際には言語以外でのコミュニケーションにも気を配り、声の調子などには気を付ける。「何を話すか」ばかりに気を向けるのではなく、「どう話すか」にも注意しなければいけません。つまり、細かな態度、視線、表情、無意識の動き、話すテンポ、などです。相手が感情的になったり、怒りをあらわにするようなことがあっても、できる限り、咎めたりせず、そのままにしておいた方がいいそうです。その方が、対話が実りあるものになるのです。相手の感情を受け入れる意思を示したほうが良い結果になることが多いのです。相手の言葉を言い返すようにするだけでも、相手を理解したという意思が伝わる。そういったように謙虚な姿勢を見せることで、相手には好ましく映り、信頼も得らえるということがいくつかの実験でも証明されているのです。

 

そして、忘れてはいけないのは「話し合いの目的」です。目的はこれからより良い仕事をするためにお互いにどうすればいいのかを話すことなのです。そして、相手ももしかすると誰かに不当な扱いを受けていると感じているのかもしれません。実は職場の外に問題を抱えているのかもしれません。話し合いをする際には「共感」をすることが重要なのです。

 

と、まぁ、こういったことをクリスティーン氏は言っています。話し合いをする際に、気を付けることを挙げています。確かにその通りですし、共感力や相手の感情を受け入れることで、話し合いが冷静なものになるというのはよくわかります。そして、何よりも感じるのが、ここで挙げられていることは、そのまま保育の現場でも起きていることです。子どもたちの喧嘩においても話し合いがもたれますが、その時に「相手の気持ちを考える」ことや「話す目的から脱線しない」ことなどは子どもでも同様です。クリスティーン氏は言っている内容はそのまま保育にも転換できるのです。面白いですね。人が話し合うプロセス、コミュニケーションの下となるプロセスは大人だろうと、子どもだろうと変わらないのです。見方を変えると、「無礼な人」というのは乳幼児期や生きていく経験の中で、こういった経験値が少ない人なのかもしれません。こういった本がでて、人気があるというのはこういったことを改めて「学ばなければいけない」時代なのかもしれません。