環境か遺伝子か

これまで、実行機能の大切さを森口氏の著書から紹介していましたが、では、実行機能はどのようにして発達していくのでしょうか。このことは様々なところで研究されてきたものです。よくその中でも、上がっていくるのが「遺伝的な要因」からなのか「環境的な要因」からかということです。これらの研究は双子を対象にすることで調べられてきました。

 

双子には「二卵性双生児」と「一卵性双生児」があります。一卵性双生児は全く同じ遺伝子を持っていますが、二卵性双生児に関しては50%程度しか同じ遺伝子をもっていません。そのため、一卵性の双子のある能力の類似性と二卵性の双子の能力の類似性を比較することで、遺伝的な要因と環境的な要因の重要性において、自分をコントロールする実行機能はどちらが大事になってくるのかを調べるようにしたのです。

 

慶応義塾大学の藤澤博士らは、子どもにとって、遺伝的な要因よりも、環境的な要因が重要な役割を果たすということを示しました。そして、家庭環境や学校環境、友だち関係のような様々な環境の中で、実行機能に影響を与えるのは家庭環境であるといっています。ただ、遺伝的な要因も決して影響がないわけではありません。では、遺伝的な要因としてはどのような影響があるのしょうか。

 

森口氏らの研究で見えてきたのは、「目標を達成するためのスキルである実行機能の高い・低いの一部は、遺伝子によって決まっている」ということが分かったそうです。研究の中で、見えてきたのは、実行機能に関わる遺伝子にも様々なものがあるのですが、その中でも前頭前野において影響を与える遺伝子があるといっています。この前頭前野でやり取りされる有名な神経伝達物質がドーパミンです。このドーパミンに関わる遺伝子としてCOMT遺伝子というものがあるのだそうですが、その遺伝子のある型をもつ子どもは、別の型を持つ子どもよりも、思考の実行機能が高いことが分かったそうです。また、こういったように遺伝子に遺伝子による影響は3-4歳ごろでは見られなかったことに対して、5-6歳児においては影響が見られたそうです。思考の実行機能が発達する幼児期後期になってからこの遺伝子は実行機能に影響を与え始めたようです。ただし、遺伝子的要因がすべてではありません。環境的要因も重要になってきますし、遺伝子の働き自体が環境に影響されることも示されていると森口氏は言っています。

 

では、環境的要因はどのように影響してくるのでしょうか。環境と一口に言っても、物質的な環境もあれば、文化といった環境もあります。また、森口氏は子どもの年齢によっても、環境的影響は異なるといっています。