準備と予測

発達は5歳で終わるわけではなく、その後も変わってきます。これまでは、子どもは第1段階では色ルール、第2段階では形ルール、というように色ルールと形ルールのどちらか一方を使えばよかったのです。ところが、少し難しくして、第3段階として、色ルールと形ルールの両方を使うようにしてみようとしてみましょう。つまり、第一段階では色ルールでカードを分け、第2段階では形ルールでカードを分けていたのですが、第3段階では、色、形、形、色、形のように、1回ずつ異なったルールを使わなければならないようにします。こうなってくると5歳児でもお手上げです。柔軟にルールを切り替えることができなくなるのです。

 

どうやら5歳頃までにルールを切り替えること自体はできるようになるようです。つまりアクセルやブレーキと同様に自動車で例えると、ハンドルの操作の仕方を覚えるのです。その意味で、この時期の発達はとても重要です。ところが、ハンドルの操作の仕方を覚えたところですぐにハンドルをうまく使えるわけではありません。ある交差点では右に、別の交差点えは左に、というように柔軟に切り替えられるようになるのは小学生になってからです。

 

では、思考の実行機能が著しく発達する3歳から6歳頃までどのような変化が起きているのでしょうか。様々な変化が見られるのですが、一例として5歳児や6歳児は、3歳児や4歳児と比べて、前もって切り替えの準備ができるという点を森口氏はあげています。

 

例えば、慣れない道を自動車で走りながら、お店を探しているとします。お店の700m前にそのお店の看板が出ています。この看板を見ることで、もう少し車を走らせたらお店があることがわかり、ハンドルを切るための心の準備ができます。そして、700m走らせると、そのお店が見えてきます。心の準備をしていたので、難なく目的地に着くことができます。

 

ところが、看板が無かったらどうでしょうか。看板がないとお店がいつ出てくるか予想がつきません。そのため、お店の側を通り過ぎる直前に気づいたのでは、ハンドルをうまく切ることができずに、お店を通り越してしまいます。

 

つまり、突発的に起こったことに対して、思考の実行機能を発揮することは難しいのです。一方あらかじめ準備していたら、比較的容易に思考の実行機能を使うことができます。5歳児や6歳児は、前もってハンドル操作をするための準備ができます。計画的に切り替えられるとも言えます。看板が出てくると「あ、準備しなきゃ」と思えるのです。一方で、3歳児や4歳児は、前もって予想することができません。看板の意味がわからないため、お店の近くに来た時点で、「あれ?ハンドルを切るんだっけ?」と考えるようです。つまり、前もって準備をできず、切り替えたほうが良いかどうかを場当たり的に考えるのです。このような仕方だと、切り替えに失敗することが多くなります。

 

このことを切り替えテストに当てはめて見ると、5歳児や6歳児は、色ルールでカード分けるように指示されると、実験者にカードを渡される以前から色ルールで分けることを頭の中で準備します。そのため、カードを渡された際にも、スムーズにそのルールに従って分けることができます。しかし、3歳児や4歳児では、カードが渡されるまでルールについて考えることができません。実験者にカードを渡されてから、どのルールでカードを分けるべきか考え始めるのです。そのため、色だったか形だったか混乱してしまい、正しくカードを分けることができないのです。

 

思えば、確かに年長の5歳児や6歳児になるとトランプでも「ババ抜き」ができるようになります。細かな思考を駆使しルールを理解するのも5歳頃のように思います。人がルールを守るためにはある程度の見通しが求められますが、こういった発達が5歳児にあるということがわかると環境を用意することにも生かされていくように思います。